第243話 ::TRACE ACTIVE::
第243話
ERROR: ACCESS_POINT//OPEN
SIGNAL_LOKI::TRACE
PROTOCOL_RAGNAROK//INIT
TARGET::FOUND
今度はポップアップではない。
しかも。
(……増えてる?)
文字列が一行多い。
その一番下。
「FOUND」
……見つけた?
誰が?
何を?
その疑問だけで、喉の奥が急に渇く。
とりあえず、上の文字列を読んでみる。
(えらあ? あくせすぽいんと……)
その文字列に、さらに別の文字が重なる。
枝のように曲がった、記号のような奇妙な形の──
ᚱᚢᚾᚨᚱ ᚹᛖᚷᚨ
──まるで視線が吸い込まれるように、その文字が網膜に張り付く。
画面の奥からにじみ出るように文字が増えていく。引き込まれる感覚が、肋骨の奥まで届く。
目を逸らそうとしても、逸らせない。
頭が、ぼーっとしてくる。
心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえる。
意味は知らないはずなのに、なぜか“わかりそう”になる。
そして。
そのあと。
声がした。
耳ではない。
スマホでもない。
頭の奥で。
もっと深い場所で。
──え?
『ᚴᛟᛗ ᚺᛁᛏᚨ(お前も、こっちに来い)』
低く、やさしい声。
怒っているわけでもない。
命令でもない。
(なになになになになに!!!)
瑚桃は慌てて頭をぶんぶん振る。
だが再び、聞こえる。
今度は、もっと近く。
鼓膜の内側。
心の奥で。
『ᚴᛟᛗ ᚺᛁᛏᚨ(お前も、こっちに来い)』
気がつくと、足が、ほんのわずかに前へ出ていた。
スマホの画面の光に、吸い寄せられるみたいに。
自分で動かしたつもりはなかった。
──怖がらなくていいよ。
頭がズキズキする。
視界がぼんやりとしている。
なんだか、言うことを聞かなければいけない気がしていた。
断ってはいけない気がしていた。
思わず、頷きかける。
こくりと。
首の骨が、勝手に前へ傾いていく。
あと少しで、返事をしていた。
その瞬間だった。
──翔太の声。
『瑚桃──』
その声が、糸みたいに瑚桃をこちら側へ引き戻す。
霧の底から、首根っこを掴んで引っぱり上げられるみたいに。
はっ、と意識を取り戻す。
(あれ? アタシ、なにしてた?)
気づけば、スマホはいつもの通話画面。
そこから、翔太の半ば呆れたような声が聞こえてくる。
だが、画面の端に、一瞬だけ、文字が残っていた。
::TRACE ACTIVE::
次の瞬間には、消えていた。
突然、戻って来る日常。
いや、日常とは言えない。
だが、これはセンパイの声だ。
いつものセンパイとの会話だ。
そのセンパイはこう言う。
『まさか、とは思うけどさ──』
「え、えと」
何の話をしていたか覚えていない。
さっきのは一体、何だったのか。
瑚桃には、わからない。
わからないけど──
(──ダメ! きっと寝不足!)
そういうことにしておかないと、怖かった。
パチン! と頬を叩いた。
強く叩きすぎる。
(……痛い……)
でも、それぐらいじゃないとダメだ。
命短し恋せよ乙女。
(……恋せよ?)
いや何を言ってるんだアタシは。
でも。
うん。ダメダメ。
一応、これでもセンパイと話しているのだ。
しかも、お願いをしようと。
なのに、寝落ちしそうになったなんて──
(──最悪!)
そう思い、敢えてハッキリとした口調で、瑚桃はこう告げた。
「そのまさかです!」
よし。大丈夫。アタシ、寝てない!
瑚桃は拳を握りしめて、ブンブン振る。
瑚桃なりの気合の入れ方だ。
(戻ってこい、現実! 戻ってこい、現実!)
そして、こう続けた。
「デルちゃんの魔法陣、瞬間移動できますよね」
『できるけど』
「あれって、言ってみれば、どこでもド……」
『ちょ、ちょっと待て!』
まるで、「言わせねーぞ」みたいな言い方。
『いや、待て。お前は重大な勘違いをしている』
「でも、すごい便利じゃないですか、あれ!」
『いや、そうなんだろうけど』
「とにかく! アタシは、センパイん家に、行きたいの!!!」
──言えた! と思った。
そのあと、マイクの向こうから、『はあ……』と、翔太のため息が聞こえた。
瑚桃は、言いたいことが言えたことに満足している。
いや、満足したことに、しようとしている。
本当はまだ、胸の奥がざらついていた。
──支配は、まだ微弱に続いている。
その心の奥にはまだ残っていた。
あのヒヤリとした手触りの文字列が。
あの『LOKI』という文字が──
まるで画面の片隅で、まだ息を潜めているみたいに。
【報告】劇中のルーン文字は、調べても出てこなかったので、AIで出してもらいました




