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幽世のリリン  作者: R09(あるク)
第三章 蝿の王編

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第244話 血に濡れたメイド

第244話


「いやあ、やっぱセンパイですよね! センパイが、か弱いアタシを自宅で一人ぼっちにさせておくわけないですもん。こりゃあ、デルちゃんにも感激フルフル涙目感謝ですね! まだ魔法陣くぐった時の違和感、慣れないですけど……。ま、いいや。デルちゃん、本当に、感謝で……え?」


 魔法陣から出てきた瑚桃こももの目の前にはデルピュネー。

 メイド服の白銀長髪の美少女──のはずが。


「ええええええええええええええ! ちょ、ちょっと、ちょっとちょっと!」


 デルの肉体は、血の色で真っ赤に染まっていた。

 まるで、頭からバケツで血をかぶったかのよう。

 いくら怪異に慣れてきた瑚桃といえど、その姿はホラー以外の何者でもなかった。


「デ、デ、デルちゃん、どうしたの、それ?」

「ああ、これでございますか……」


 そう言ってデルは、体をあちこちひねりながら、血で汚れたメイド服を見る。


「ただの返り血でございます、瑚桃さま」

「ただのって……」

「やあ、瑚桃。これは仕方ないんだよ。なにせ、急を要したからね」


 そう語るのはシャパリュ。

 血まみれのデルピュネーのすぐ横でふわふわと浮いている。


「デルをこの家に呼び戻したのは、ついさっきなんだ。それまでデルは、セイレーンの命を受けて、外でゴブリンやトロール、あと巨人たちを壊して回っていたんだよ」

「ゴ、ゴブリン……ト、トロール……」

「それより、君をここに呼んだのは特別な処置なんだ。総合的に判断して、君を僕たちの側に置いておいた方がいいと判断してね」


 とは言っても、この動揺は簡単には収まらない。

 ──これで、センパイの家に行ける、と油断していたこともある。


「無事か、瑚桃!」


 そう心配してくれる翔太の顔も見ることができない。

 瑚桃の目は、血みどろのデルピュネーに釘付けになっている。


 前髪の先から、濃い赤が一滴、静かに落ちた。

 白い頬に張りついた血が、呼吸に合わせてかすかに光る。

 胸元のフリルは濡れて肌に貼りつき、その下で確かな鼓動が感じられた。

 指先から滴る血はまだ温かく、床に触れるたびに小さく弾ける。

 壊したはずの命の残り香の中で、デルピュネーだけが、美しく“生きていた”。


 怖い。

 なのに、なぜか美しくも感じる。

 呆然とデルピュネーを見ている瑚桃の肩を、美優が揺すった。


「しっかりして、瑚桃ちゃん! 何ともない? 大丈夫?」

「……あ。うみちゃんセンパイ」


 ぼんやりとした目で瑚桃は美優を見る。

 なんで、アタシはこんなに心配されているのだろう。

 どうして、センパイも、うみちゃんセンパイも、無事とか、大丈夫とか訊くのだろう?


「瑚桃。君が警察署長の父親から聞いた通り、今回の『濃霧』の中には、ゴブリンやトロール──北欧の怪物たちが多く潜んでいる」


 瑚桃は、ぼーっとしたまま、シャパリュの声を聞く。


国際魔術会議ユニマコンのエージェントたち、そして何らかの理由で外出した人たちが襲われた例も相次いでいる」

「かなり、広範囲にわたって、わたくしとセイレーンさまとで殲滅せんめついたしましたが」


 と、デルが継ぐ。


「ですが、次から次へと湧いてくるのでございます。港からは、ドラウグルの群れも確認できました。そのほかにも、死体を喰らう屍鬼・グールや、ワーウルフ……人狼じんろう、また、いわゆる意識のみで存在する亡霊であるスペクターなどとも遭遇しました。放っておけば、ますます増えてくるでしょう」

「もちろん、デルやセイレーンの敵ではない。けれども、圧倒的数の怪物がいまだうろついているようなんだよ」


 少しずつ、瑚桃の意識がハッキリとしてきた。

 グールに、ワーウルフ。瑚桃が聞いたことのある怪物の名もある。


「……と、いうことは、その化け物たちの、返り血……?」

「そうでございます。瑚桃さま」

「デルちゃんは、怪我はしてないの?」

「多少、メイド服を破かれましたが……」


 と、デルは、脇のすぐ下を、そっと身をよじって見せる。

 そこには、何か鋭い爪でひっかかれたような裂け目。

 その下に、白い肌がのぞく。

 傷ひとつないその肌は、返り血の赤と対照的に、やけに生々しく見えた。


「わたくしは、無傷でございます」


 そういうとデルは、いまだ血が滴る顔で、やさしくにっこりと微笑んだ。


「でも、大丈夫でございます、瑚桃さま。この返り血も、メイド服の裂け目も、ちょっとした魔術で、すぐに綺麗になりますので……」


 そのデルの微笑みとは裏腹に、瑚桃の顔が赤く上気していく。


「──え?」


 デルは不思議に思い、その姿勢のまま動きを止める。


「どうした、瑚桃?」


 翔太が尋ねる。


「瑚桃ちゃん、何かあったの? 何か気づいたの!?」


 美優が顔を寄せてくる。

 しかし、瑚桃の口から出た言葉は──


「ええええええええええええええ! デルちゃん、ブラジャーつけてないの!?」


 ──時が、止まった。

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