第六章 不思議な色のお茶
第六章 不思議な色のお茶
「……あの、お店、見てみたいです」
口にしてから、凪は少し恥ずかしくなった。
休ませてもらいたいと言えばいいのに、見てみたい、などと子どものような言い方をしてしまった。
けれど、女性は笑わなかった。
「ええ。じゃあ、行きましょう」
そう言って歩き出す姿も、やはり格好よかった。
自分と同じくらいの年齢なのに、自分の店を持っている。朝から化粧も髪も隙なく整え、細いヒールで迷いなく歩いていく。
夜勤明けで髪は適当、化粧もほとんど落ち、今にも眠りそうな自分とは大違いだ。
凪は女性の背中を追いながら、バッグの紐を肩に掛け直した。
少し休みたい気持ちもあった。
この人がどんな店をやっているのか見てみたい気持ちもあった。
駅前の通りは人が多かった。スーツ姿の会社員、スマートフォンを見ながら歩く学生、店先を掃除する人。凪たちは、その流れの中を歩いていった。
「ここよ」
女性が足を止めた。
駅から二分も歩いていない。飲食店や美容室の看板が並ぶ、小さな雑居ビルだった。
女性が指した看板には、先ほど渡された名刺と同じ店名が書かれている。
店は二階にあるらしい。
少なくとも、人目のない怪しい場所ではなかった。人通りの多い駅前だし、一階にはすでに営業している店もある。
変なことにはならないだろう。
凪は少しだけ安心して、女性のあとに続いた。
階段を上がる足は重かった。
一段上がるたび、太ももが自分のものではないように感じる。二階までが、やけに遠い。
「大丈夫?」
上から女性が振り返った。
「大丈夫です。夜勤明けの階段、ちょっときつくて」
「もうすぐよ」
ようやく二階へ着くと、女性は廊下の奥にある扉の鍵を開けた。
扉が開いた瞬間、落ち着いた香りが凪の鼻をかすめた。
「あ……いい匂い」
「よかった。苦手な香りだったらどうしようかと思ってたの」
店内は柔らかな色の照明に照らされていた。木目の棚には、小さな瓶がいくつも並んでいる。奥は薄いカーテンで仕切られ、その向こうに施術用らしいベッドが見えた。
もっと華やかな店を想像していたが、静かで落ち着く場所だった。
「そこに座って。今、お茶を入れるから」
促されるまま、凪は入り口近くの椅子に腰を下ろした。
ようやく足を休められる。
息を吐くと、体の力が椅子へ吸い取られていくようだった。
女性はバッグを置き、店内の照明をつけて回った。それから小さな流し台の前に立ち、湯を沸かし始める。
「あ、まだ名乗ってなかったわね」
振り返った女性が言った。
「私、神谷玲奈。この店を一人でやってるの」
「町田凪です」
「凪さんね。いい名前」
「ありがとうございます」
やがて、玲奈は湯気の立つカップを二つ運んできた。
「どうぞ。ハーブティーよ」
目の前に置かれたお茶を見て、凪は瞬きをした。
温かそうではある。
ただ、何と呼べばいいのか分からない、不思議な色をしていた。
緑にも茶色にも見える。光の加減によっては、ほんの少し紫が混じっているようにも見えた。
「すごい色ですね」
「体にはいいのよ」
玲奈は平然と自分のカップを持ち上げた。
凪も両手でカップを包む。
温かさが手のひらに染みた。それだけで、少し眠気が和らいだ気がする。
顔を近づけると、店内に漂うアロマとは違う、青い葉をちぎったような香りがした。
凪は恐る恐る、一口飲んだ。
「……ん」
苦い。
そのあとから、舌の奥に甘いような、酸っぱいような味が残った。
飲めないほどではない。けれど、おいしいかと聞かれたら、返事には困る。
玲奈がカップ越しに凪を見ている。
「独特な味ですね」
「そうでしょう?」
玲奈は楽しそうに笑った。
凪はもう一度、カップの中を覗き込んだ。
「これ、何のお茶なんですか?」
玲奈は答えた。
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①「体の毒素を抜く、デトックス効果のある薬草茶よ。味は、まあ不味いけど」
こちらを選んだあなたは、第十二章へ進んでお読みください。
②「血液の流れをよくするの。特に、脳に血液が集中するわ」
こちらを選んだあなたは、第十三章へ進んでお読みください。
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女性は、きりっとした印象に合うように神谷玲奈と名づけたで。ここで①なら少しコミカルにも健康話にも行けるし、②は一気に怪しさが立ち上がるな。




