第十二章 憧れのかたち
第十二章 憧れのかたち
「体の毒素を抜く、デトックス効果のある薬草茶よ」
玲奈は自分のカップを見ながら続けた。
「味は、まあ不味いけど」
凪は思わず吹き出しそうになった。
「自分で出しておいて、不味いって言うんですか?」
「だって、おいしいって嘘をついても仕方ないでしょう?」
玲奈は涼しい顔で、もう一口飲んだ。
「良薬口に苦しって言うし。不味いものほど体にいい気がするじゃない」
「気がするだけなんですね」
「ちゃんと効能はあるわよ。でも、味については保証しない」
凪はカップの中を見つめた。
色も不思議なら、香りも味も独特だ。
それでも、二口目は最初ほど飲みにくくなかった。
「どう?」
「……慣れたら飲めるかもしれません」
「それ、一番困る感想ね。お店で出していいのか、やめたほうがいいのか分からない」
二人で笑った。
会ったばかりの人の店に来て、よく分からない色のお茶を飲んでいる。
少し前の凪なら、そんな自分を想像もしなかっただろう。
店内には穏やかな香りが漂っている。
棚に並ぶ小瓶には、凪の知らない植物の名前が書かれていた。壁には小さな額に入った資格証がいくつか飾られている。
どれも玲奈が、この店を始めるまでに積み重ねてきたものなのだろう。
「このお店、一人で始めたんですか?」
「ええ」
「すごいですね」
「小さい店よ。まだまだ大変なことばっかり」
玲奈はそう言ったが、その声は楽しそうだった。
「でも、自分でやりたかったの。香りも、店の内装も、出すお茶も、全部自分で決めたかったから」
「怖くなかったですか?」
「怖かったわよ。今も怖い」
玲奈は迷わず答えた。
「お客さんが来なかったらどうしようとか、来月も家賃を払えるかなとか。毎日考える。でも、やらなかったら、ずっとやりたかったって言い続けることになるでしょう?」
凪は黙って玲奈を見た。
同じくらいの年齢。
それなのに、玲奈は自分の好きなものを選び、自分の店を持ち、その中に立っている。
髪も化粧もきれいに整えて、何でも迷わず決められる人に見えた。
けれど、怖くないわけではないらしい。
怖くても、自分で決めて前へ進んだのだ。
格好いい。
素直にそう思った。
同時に、この人ともう少し話してみたいと思った。
今日だけお茶を飲ませてもらって、それきりになるのは惜しい。
玲奈が何を好きで、どうしてこの仕事を選んだのか。店を始めるまで、どんなことがあったのか。
もっと聞いてみたい。
親しくなれたらいいな、と凪は思った。
「凪さんは?」
突然尋ねられ、凪は瞬きをした。
「私?」
「そう。看護師の仕事、好き?」
凪はすぐに答えられなかった。
嫌いではない。
人の役に立てたと感じる日もある。看護師になってよかったと思う瞬間も、確かにある。
けれど、好きなものを仕事にしたのかと聞かれたら、少し違う気がした。
「難しいですね」
「そっか」
玲奈は答えを急かさなかった。
凪は両手でカップを包み、その温かさを感じた。
玲奈のように、自分の好きなものを仕事にしたい。
そう思う一方で、凪には仕事にしたいほど好きなものが何なのか、まだ分からなかった。
それなら、この人のようになりたい。
自分で選び、怖くても前へ進める女性になりたい。
二つはよく似ているようで、少し違う。
自分が本当に望んでいるのは、どちらだろう。
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① 自分の好きなものを見つけ、それを仕事にしたい。
こちらを選んだあなたは、第二十四章へ進んでお読みください。
② 玲奈のような、格好いい女性になりたい。
こちらを選んだあなたは、第二十五章へ進んでお読みください。
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