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選択肢ーーあなたが選ぶ、十六の結末  作者: もちむぎ


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第十章 縦向きの海

第十章 縦向きの海


 前方の車両が、あり得ない方向へ折れ曲がっていた。


 脱線事故。


 凪の頭に、真っ先にその言葉が浮かんだ。


 車両は大きく傾き、横倒しになっている。連結部分は不自然にねじれ、その先がこちらから見えなくなっていた。


 凪は座席をつかんだまま、周囲を見回した。


 自分のいる車両は傾いていない。


 床は床のままだ。吊り革も真っすぐ下がっている。荷物だけが先ほどの衝撃で散らばり、通路を転がっていた。


 窓の外にも線路が見えた。


 凪たちの車両は、まだ線路の上に立っている。


 では、前の車両はどこへ倒れたのか。


「大丈夫ですか?」


 凪は立ち上がった。


 膝が震えている。


 それでも、体に大きな痛みはない。頭も打っていない。自分が動けることを確かめると、看護師としての習慣が先に働いた。


「けがをした人はいませんか?」


 返事はなかった。


 さっき叫び声を聞いた気がしたのに、車内は妙に静かだった。


 乗客の姿も見当たらない。


 眠る前には、離れた席に何人かいたはずだ。いつ降りたのか。それとも、前の車両へ移ったのか。


 凪は床に落ちた自分のバッグを拾い、肩に掛けた。


 そして、前方へ歩き出した。


 一歩進むたびに、足元で小さな破片が鳴る。


 連結部分に近づくと、異様な光景がはっきり見えた。


 前の車両は横倒しになったのではない。


 線路の外へ倒れたわけでもなかった。


 凪のいる車両に対して、直角に折れ曲がっている。


 こちらの床と、向こうの車両の壁が繋がっていた。


「……何、これ」


 事故では説明できない。


 車両だけが、別の重力に引かれているようだった。


 向こう側では、座席が壁に並んでいる。吊り革は横向きに伸び、窓は頭上から足元へ続いていた。


 凪は連結部分の手前で立ち止まった。


 前方車両の窓の向こうに、青いものが見える。


 空だと思った。


 けれど、白い泡が流れている。銀色の魚の群れが、窓の向こうを横切った。


 海だった。


 青い海が、壁のように立っている。


 波は下から上へ昇り、白い雲の代わりに魚が泳いでいた。


「海……」


 眠る前、自分が口にした言葉を思い出す。


 海、見えるかな。


「いや、見えるかなって、こういう意味じゃないんだけど」


 思わず口から出た。


 もちろん、誰も答えない。


 凪は頬をつねった。


「痛い」


 夢なら、ずいぶん律儀に痛みまで再現している。


 そのとき、前方の車両から音がした。


 かすかな声だった。


「……誰か……」


 人の声だ。


 助けを求めている。


 凪は反射的に一歩踏み出した。


 だが、連結部分の向こうでは、床の向きが九十度変わっている。足を入れた途端、どちらへ落ちるのか分からない。


 その背後で、空気の抜ける音がした。


 振り返る。


 自分のいる車両の扉が、ゆっくりと開いていた。


 駅ではない。


 扉の外には線路も地面もなく、穏やかな砂浜が広がっていた。


 車内から一歩下りれば届きそうなところで、白い波が寄せては返している。


 前を見れば、誰かが助けを求めている。


 後ろを見れば、この異様な車両から出られるかもしれない。


 凪は連結部分と、開いた扉を交互に見た。


⸻


① 助けを求める声を追い、向きの変わった前方車両へ進む。

こちらを選んだあなたは、第二十章へ進んでお読みください。


② 開いた扉から外へ出て、砂浜へ下りる。

こちらを選んだあなたは、第二十一章へ進んでお読みください。


⸻



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