第94話 空いているけど、休みです
水曜日、安西さんへ正式に返事を送った。
三日間の公演と、準備の日。
録音の予定を入れても、引き受けられる。
返信には、よろしくお願いします、と書いた。
少し迷ってから、歌の相談も楽しみにしています、と足した。
もう、何度も言っている。
でも、実際に楽しみだったので、そのまま送った。
(伝わってるなら、それでいいか)
スマホを机へ置き、冷蔵庫から昼ご飯の材料を出した。
*
玉ねぎを切っている途中で、通知が鳴った。
確認した安西さんから、追加部分を合わせる日の候補が届いていた。
来週の木曜日の午後か、その二日前の火曜日。
火曜日には、昨日、自分で休みと書いた。
予定としては、空いている。
人に説明できる立派な用事はない。
家にいて、ゲームをして、眠くなったら少し寝たいだけだった。
俺は、包丁を置いて手を洗った。
木曜日なら、夜の勤務にも間に合う。
そちらでお願いする、と返した。
石倉さんにも、二件ともお願いしますと返した。
そのあと、火曜の文字を見た。
消さずに、残した。
*
夕方、森野さんから通話が来た。
「木曜で決まりそうです。僕も、そっちが助かります」
「よかったです」
「火曜、別の仕事でした?」
俺は、少し止まった。
そういうことにしたら、話は早い。
でも、嘘をつくほどのことでもなかった。
「……休もうと思ってました」
「ああ。大事です」
森野さんは、普通に答えた。
俺は、少し力が抜けた。
「何か、したいことあるんですか」
「ゲームを」
「いいですね」
それ以上、立派な理由は求められなかった。
(よかった。工場が詰まってる話まで、しなくて済んだ)
理由としてどのくらい通じるのか、自分でもあまり自信がなかった。
*
森野さんは、最近見た芝居の話をした。
短い出番の人が、最後に一言だけ返すところが好きだったらしい。
「自分が出てるときも、ああいう一言をやりたいなって。歌のあとに、ただ片付けて終わるんじゃなくて」
「最後の、六時で、ですか」
「そう。あそこ、僕は結構好きなんです」
俺はうなずいた。
歌い終えたあとで、あの返事が来るから、レンも短く答えて終えられる。
拍手をもらうためだけに並ぶのとは、少し違っていた。
「追加のところも、何か言いたいです」
森野さんが言う。
「俺も、聞きたいです」
そう返すと、向こうで笑う声がした。
「歌うほうは、久瀬さんにお願いして」
「はい」
そこは、遠慮するつもりがなかった。
*
通話を終えてから、冷蔵庫へ入れておいた昼の残りを出した。玉ねぎと卵で作ったものだった。
小さな皿へ移し、温め直す。
料理に一点使ってから、このくらいの食事を作るのは、ずいぶん楽になった。
量を大きく間違えず、火を止めるところもわかる。
おいしく食べられれば、毎日すごい料理でなくてもよかった。
机へ座り、予定表を見た。
三日分の公演は、決まった。
録音も、二件。
休みの火曜日も、残っている。
これなら、次の予定を考えるときに、店の勤務も少し相談できるかもしれない。
俺は、明日の持ち物の横へ、小さく書いた。
店長に、来月の勤務。
そこまで書いてから、卵を一口食べた。
話す内容は、食べ終えてから考えることにした。




