第92話 三回分の、日曜日
月曜日の昼、安西さんから予定表が届いた。
土曜日に聞いた三つの日曜日が、今度は正式な候補として並んでいた。
最初は三週間ほど先。
そこから四週間ごとに、一日ずつ。
各日、午後二時と五時の二公演だった。
俺は、最初の日付へ指を置いた。
一日で、二回歌う。
商業施設の仕事では、二枠に出たことがある。でも、台詞も動きもある芝居を続けて二回やるのは、初めてだった。
森野さんが途中で帰るところも、二回。
自分で部屋を借りるところも、二回。
最後の歌は、もちろん二回歌える。
(そこは、いいな)
かなり、いいと思った。
*
電話で、安西さんに確認した。
「二回の間は、休めますか」
「はい。昼が終わったら休憩を入れます。夕方の準備までに、食事も取れるようにします」
「ありがとうございます」
「久瀬さん、歌うほうは大丈夫そうですか」
「はい。声は、出せると思います」
前の公演が終わったあとも、歌いたい気持ちは残っていた。
喉を無理に押して出した声ではなかったので、そこは、あまり心配していない。
ただ、待っている時間に空腹になるのは避けたかった。
(腹が鳴る芝居には、したくない)
台詞の間が静かな作品だった。
もし鳴ったら、森野さんも困るだろう。
*
出演料は、一日四万二千円。
三日分で、十二万六千円になる。
それとは別に、今回の準備料が一万八千円。初回分とまとめて、最初の公演の翌日に支払われる予定だった。
どちらも交通費を含む。
俺は、先に受け取る六万円と、後の二日分とを分けてメモした。
全部が今月入るわけではない。
それでも、いつ何をする仕事なのかが、先まで見えた。
「準備は、どのくらいになりますか」
「曲の相談と、二人で合わせる日、前日の確認を考えています。元の芝居を最初から作り直す予定はありません」
俺は台本を開いた。
何度も書き足した印が、そのまま使える。
「最後に増やす部分は、どうなりますか」
こちらも、聞いておきたかった。
*
安西さんは、終演したあとの短い番外編にしたいと話した。
二人が次の日曜日にも部屋へ来たら、どうするか。
それを少し見せて、歌を一曲。
本編で二人が約束できたところは、きちんと終わらせる。
そのあと、もう少し見たい人へ、短く続きを渡す。
「毎回、話が解決しないまま次へ続く形にはしません。今回初めて来る方にも、一本を見たと思って帰ってほしいので」
「はい」
俺も、そのほうが好きだった。
ゲームの新しい設備は、先があっていい。
でも、部屋を借りるかどうかだけで、いつまでも歌わせてもらえないのは困る。
「石倉さんが、いくつか曲を考えています。久瀬さんにも聞いていただきたいです」
「お願いします」
すぐに答えた。
電話の向こうで、少し笑う声がした。
*
通話を終え、予定を勤務と並べた。
今決まっているところとは、重ならない。
まだ先の分は、希望を出せる時期だった。
準備の日には、これから入る録音の予定もあるかもしれない。
全部を先に埋めてしまわないよう、候補をいくつか残した。
カレンダーに、三つの日曜日が入る。
今までは、終わった仕事のあとに、次はあるだろうかと考えていた。
今日は、その次の予定まで見ている。
俺は、少し椅子へもたれた。
嬉しかった。
同じ役で、また呼んでもらえたことも。
そのために残しておく日を、自分で決められることも。
石倉さんへ、届いていた録音の相談の詳細をお願いする返事を打った。
次に何が来るのかも、ちゃんと知りたかった。




