第91話 また、同じ三人で
土曜日の朝、塔が三基になっていた。
午前六時十五分に買い、予約していた次の中枢へ進んでいる。
自分で、選び直す必要はなかった。
俺は購入の履歴を開き、少しだけ笑った。
毎秒の生産は、三百六十九兆ほどから五百五十四兆ほどへ増えている。
次に中枢が増えれば、その分も三基の塔へ回る。
(いいぞ。その順番だ)
自分が決めた順番だった。
実際に進むところを見ると、設定したときとは別に、また楽しかった。
*
午後二時、文化館の近くの喫茶店へ行った。
森野さんと小野さんが、奥の席にいた。
俺が座ると、森野さんがメニューをこちらへ向ける。
「今日は、ちゃんと好きなもの頼んでくださいね」
「……はい」
言われたので、一番安いところから見るのをやめた。
少し上に、ホットサンドがあった。
昼ご飯は食べていたけど、写真を見ると、食べられそうだった。
飲み物と一緒に頼む。
「お腹、空いてた?」
「少し」
答えてから、内心で訂正した。
(おいしそうだったので)
今日は、舞台のレンとして来たわけではなかった。
*
安西さんが来るまで、公演の話をした。
小野さんが、最後の曲で変えてみたい音を、指で机の端へ軽く示す。
「今より、最後へ行く前のところを少し薄くしたいんです。そのほうが、声が広がったときに気持ちよさそうで」
「歌いやすそうです」
俺は、聞いてすぐに言った。
森野さんが笑う。
「もう始まりそうですね」
「ここでは、歌わないです」
「よかった」
それは、ちゃんとわかっていた。
人のいる喫茶店でいきなり歌い出すほど、外での自分は元気ではない。
ただ、どんな音になるのかは聞いてみたかった。
*
安西さんが来て、次の公演の話になった。
「四週間ごとに、一日ずつ取れそうです。まずは三回。毎回、昼と夕方の二公演を考えています」
俺は、台本の入ったバッグを足元へ寄せた。
次の一回だけではなかった。
三日分、先まである。
「同じ作品を、続けるんですね」
「はい。最初の三十五分ほどは、大きく変えないつもりです。来られなかった方に、ちゃんと同じ話を見てもらいたいので」
そのうえで、最後に短い曲や小さな場面を付ける案が出ているという。
前に見た人も、少し違う楽しみを持って来られるようにしたいらしい。
俺は、ホットサンドを持つ手を止めた。
「……歌が、増えるんですか」
小野さんが、先に笑った。
「そこ、反応すると思いました」
*
森野さんは、予定表を開いた。
「僕は、その三日なら今のところ空いてます。準備の日は、ほかの仕事と合わせたいです」
小野さんも、自分の予定を見ていた。
全員が、いつでも同じ場所へ集まれるわけではなかった。
それでも、また三人でできそうだった。
俺は、示された日付をメモへ入れた。
「俺も、店と確認します」
「お願いします。報酬と準備の日を、月曜にまとめてお送りします」
安西さんが言った。
まだ、その場ですべてを決める話ではない。
でも、同じ役を続けたいと答えたことは、よかったと思った。
*
帰り道、文化館の前を通った。
先週、自分が出ていた場所だった。
入口の案内を見てから、駅へ向かう。
今日の電車代も、喫茶店で食べたものも、もう大きく困る金額ではなかった。
前の仕事の報酬が、口座に残っている。
そのうえで、次を相談できた。
俺は、カレンダーを開いた。
三つの日曜日へ、仮の予定が入っている。
正式に決まったら、その日にまた歌える。
そう思うと、電車を待つ間にも、最後の曲を少し思い出した。
スマホへ、小野さんからメッセージが来た。
『また合わせられるの、楽しみにしてます』
俺は、返事を打った。
『俺も、楽しみです』
送ってから、口元が少し緩んだ。
今度は、もう知っている二人と始められそうだった。




