第81話 買う順番まで、置いておく
水曜日の昼、ようやく二垓まで貯まった。
塔を増やすなら、九垓以上かかる。
今見ている改良は、それより早く手が届くものだった。
【塔内貯蔵槽】
【価格:2垓キューブ】
【各塔の毎秒複製回数:80 → 160】
七基目のプラントを買ってから、改良の一覧に増えていた。
塔の中にキューブを置いておく場所を作り、届いた分を待たずに続けて回すらしい。
今の二基にも、あとで買う塔にも効く。
俺は、購入した。
ほとんど空になった所持数が、すぐにまた増え始める。
毎秒、百八十五兆ほどだったものが、三百六十九兆ほどになった。
一秒分の桁を見て、少し笑った。
(やっぱり、先にこっちだったな)
次の塔を待つ時間も、これで短くなる。
*
改良欄には、もう一つ、目をつけていたものがあった。
【購入順予約】
【価格:10京キューブ】
【最大三件の購入目標を順番に実行します】
生産は増えない。
新しいポイントも、もらえない。
ただ、自動購入で一つ買ったあと、次の目標へ進めるようになる。
今までは、決めた数で止まったら、自分で別の設備を選び直していた。
俺は、所持数を見た。
さっきの大きな改良のあとでも、十京分は残っている。
買った。
(便利なものは、便利なので)
生産が一つも増えない買い物なのに、かなり満足した。
*
設定画面を開くと、空欄が三つ並んだ。
一つ目に、塔を選ぶ。
所有数が三基になるまで。
二つ目は、中枢を五基まで。
三つ目に、プラントを八基までと入れた。
次の設備へ勝手に飛ばすことはなく、一つ目の目標に届くまで貯める。安い下位設備が買えるようになっても、そちらへ寄り道はしない。
俺は、順番を一度入れ替えた。
中枢を先にすると、塔へ送る量は増える。ただ、今の数なら塔を増やしたほうが、支払うキューブに対して増える量が大きかった。
元の順番へ戻す。
稽古のあいだに買われても、その次に何を増やすかは、もう決めておける。
小さい文字で、設定を保存しました、と出た。
俺は画面を閉じた。
三秒くらいして、開いた。
順番は、変わっていなかった。
(知ってる。確かめたかっただけだ)
*
洗濯物を干している間にも、キューブは増えた。
シャツを一枚ずつハンガーへ掛け、最後に靴下を挟む。
その途中で画面を開く必要はなかった。
塔が買えるまでには、まだずいぶんかかる。
値段の上がり方も大きくなっているので、一日放っておけば、何でも買える段階ではない。
それでも、以前より待つ時間は短くなった。
増えた生産で、また次の設備を買う。
その順番を考えたあとは、自分がほかのことをしていても進んでくれる。
俺は、台本を机へ広げた。
今日は、喫茶店から出るところを試したかった。
*
レンが、コップを机へ置く。
ソウは先に立ち、支払いの紙を取る。
俺は椅子を戻しながら、帰ろうとする相手に話しかけた。
前なら、椅子を置くまで次の言葉を少し待っていた。
今は、動いている間に言っても、息が変に切れない。
森野さんに返してもらうつもりで、少し間を置く。
紙を持ったまま、今度はこちらが先に歩く。
途中で止まらず、最後までやれた。
俺は椅子へ座った。
演技の八点も、先ほどのキューブも、もう手元にはない。
その分、できることが増えている。
どちらも使いたかったので、後悔はしていなかった。
ただ、歌唱の次の段階は、まだ欲しかった。
スキルの一覧を開く。
三十四ポイント。
今は、一。
(遠いな、おい)
思わず眉が動いた。
でも、明日はまた三曲歌える。
新しい段階を待つ間も、今の声で歌いたいものは残っていた。




