第74話 続きも、歌いたい
日曜日の昼前に、安西さんから公開の連絡が届いた。
公式ページを開くと、音楽室にいる二人の画像が出た。
再生のボタンを押す。
昨日、石倉さんのところで見た映像が、自分のスマホでも始まった。
俺はイヤホンをつけた。
途中から見るつもりだったのに、結局、最初から歌の終わりまで見た。
名前が出るところも、飛ばせなかった。
(載ってるな)
昨日も載っていた。
確認したのは、自分だ。
それでも、公式のページから開くと、もう一度確かめたくなった。
*
藤崎さんと相原さんのグループへ、ページを送った。
『撮影した映像が公開されました。四分くらいです。よかったら見てください』
店長にも、同じページを送る。
そこまで終えて、スマホを机へ置いた。
顔のことは、昨日、十分見た。
変なところはないと思う。
そう思っていても、送ったあとは、しばらく通知が気になった。
俺はゲームを開いた。
プラントを買ってから、またキューブが貯まっている。
次の設備は、まだ買えなかった。
(こういうときだけ、すぐ買わせてくれないかな)
何か一つ増やして、そちらの数字を見ていたかった。
生産の画面を閉じ、冷蔵庫から麦茶を出した。
コップへ注いでいる途中で、通知が鳴った。
少し、こぼした。
*
『見た! レン、ちょっとずるいね』
藤崎さんだった。
俺は、拭いた机の端へコップを置いた。
『歌を聞いてもらうところですか』
『そう。あんなに聞いてほしいくせに、聞くだけでいいからって顔してる』
そのあとに、笑っている顔の絵がついた。
『でも、座ってもらえたとき、嬉しそうだった。あそこ好き』
俺は、メッセージを読み返した。
演技の説明は、何もしていない。
映像を見ただけで、そこまで伝わった。
『ありがとうございます。そこ、やりたかったところです』
『歌もよかったよ。あの曲、もっと長くないの?』
俺は、昨日と同じことを聞かれて、少し笑った。
『今は、あそこまでだそうです。俺も、続きが歌いたいです』
*
相原さんからは、少しあとに返事が来た。
『部屋が決まってないのに曲はできてるの、好きだな。スタジオの予約、忘れてたとき思い出した』
前に、友達と合わせる日を決めてから、部屋が取れていないことに気づいたらしい。
俺は、役の話をしながら、普通に相原さんの話を聞いた。
最後に、もう一つ届いた。
『台詞のあとに歌うと、歌だけで聞くのと違うね。ちゃんと、あの人に聞かせてる感じがした』
嬉しかった。
あれだけ何度も相手を見て歌ったので、見ている人にもそう感じてもらえたなら、よかった。
店長からは、夕方に返事があった。
『見たよ。いつもの返事に似てるのに、ちゃんと役になってるね。撮影、お疲れさま』
俺は、ありがとうございます、と返した。
いつもの返事。
最初の、わかってる、と言うところだろうか。
職場では、わかってます、とは言わないようにしているつもりだった。
(言ってないよな)
少し不安になったが、そのあとの褒めてもらったところを、もう一度読んでおいた。
*
その日の夜、石倉さんからも連絡が届いた。
『本と休日』の案内で、十五秒の曲が使われ始めたらしい。
送られた公式ページを開くと、本の映像と一緒に、二つ重ねた声が流れた。
こちらも、確認したとおりだった。
短い曲の仕事も、実際に使われるところまで終わった。
俺は一度スマホを置き、食べ終えた皿を洗った。
片付けている間に、『まだ、ここで』を少し口ずさんだ。
撮影のときの、歌い始める前の間までついてきた。
最後まで歌うと、当然、そこで終わった。
もう一番あるわけではない。
皿を水切りへ置き、指先を拭く。
俺は、石倉さんへ返事を送った。
『読書フェアの曲、確認しました。ありがとうございます。昨日の歌の続きも、もし作ることになったら、歌いたいです』
最後の一文を消そうとして、やめた。
昨日も言ったけど、言っておきたかった。
*
月曜日の昼、安西さんからメールが来た。
映像を出したあとの、公演予約についてだった。
予約するときの自由記入欄に、歌の続きを聞きたいという感想が、二件あったらしい。
俺の名前は、書かれていなかった。
レンが歌っていた、あの曲の続き。
画面を見て、少し口元が緩んだ。
(わかる。俺も聞きたい)
自分で歌えたら、もっとよかった。
メールには、その下にも続きがあった。
『改めて、舞台のレン役についてご相談したいです。稽古の日程と出演条件をまとめてお送りしますので、一度お話しできませんか』
俺は、椅子へ座り直した。
短い映像の役を、そのまま舞台でやる話だった。
客席に人がいて、途中で撮り直しにはならない。
どのくらいの長さなのか。何日練習するのか。店の勤務と合わせられるのか。
聞くことは、いくつもあった。
でも、返事の最初は、あまり迷わなかった。
『ぜひ、お話を聞きたいです』
そこまで打ってから、もう一行足す。
『歌う場面も、増える予定でしょうか』
送った。
机へスマホを置き、つけっぱなしにしていたゲームを見る。
キューブは、増えていた。
歌唱をもう一段上げるには、ポイントがまだ足りない。演技なら、今の九点でも、もう一つ買える。
今すぐ使うかは、台本を読んでから決めようと思った。
足りないところだけでなく、やってみたいところにも使える。
森野さんがバッグを置いたときの顔を、思い出した。
次は、あのあとも歌いたかった。
しばらくして、安西さんから短い返事が来た。
『増やす予定です。まず、その曲のお話からしましょうか』
俺は、スマホを持ったまま、うなずいた。
(お願いします。そこから聞きたいです)
まだ誰もいない部屋で、返事の前に、小さく声が出た。
「……よし」




