第65話 使う予定のあるポイント
火曜日の昼、循環同期を買った。
千二百京。
塔を買ってから貯めていた分が、ほとんどなくなった。
代わりに、二基の塔を通るキューブの流れが速くなる。
【毎秒複製回数:80】
今までの二十回から、八十回。
中枢から来る分を、同じ一秒の間に、何度も複製する。
毎秒の生産は、二十七兆ほどから百八兆ほどへ跳ねた。
俺は、少し画面へ顔を寄せた。
(これは、待ったかいがある)
次のプラントも、明日には買えそうだった。
自動購入を六基までに指定する。
その次に中枢を増やせば、塔へ送る量もさらに増える。
値段を見て、どちらから買うか、もう一度比べた。今の順番なら、少し早く次へ進める。
*
水曜日の午後一時、プラントが六基になった。
木曜日には、次の中枢を四基までと指定して、自動購入を動かした。
その間に、俺は台本を読んだ。
紙を見せてから、相手の顔へ戻るところ。
返事を聞いて、椅子へ手をかけるところ。
部屋で一人やってみると、台詞は言えても、途中で自分の足が気になることがあった。
椅子を動かすために下を見て、そのあと顔を上げる。日曜日に森野さんと試した流れより、少し間が空いてしまう。
できるようにしたいところが、具体的に増えていた。
*
日曜日の朝、中枢が四基になっていた。
午前五時二十分に買ったらしい。
毎秒の生産は、百六十四兆ほどへ増えている。
俺は、次の実績までの残りを見た。
累計一垓。
そこへ届けば、十六ポイントもらえる。
今は一しか残っていない。演技を次へ上げるには三ポイント必要だった。
買いたいと思ったその場で買えないのは、久しぶりだった。
(あと一日ちょっとか)
画面を閉じ、台本を開いた。
今日は、今の自分でできる範囲を確かめることにした。
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翌々日の火曜日、実績を受け取った。
昨日の夕方には届いていた。
【スキルポイント×16を受け取りました】
【所持スキルポイント:17】
歌唱の九は、三十四ポイント。
貯めて待つなら、その半分まで来たことになる。
でも、撮影は三日後だった。
今は、あの部屋でレンとして動けるようになりたかった。
演技を四にする。
さらに五へ上げた。
使ったのは、三点と五点。残りは九だった。
俺は椅子から立ち、机に置いた紙を持った。
扉のほうへ顔を向ける。
「三分だけ、残れよ」
相手が止まるところを思い浮かべた。
紙を見せ、言葉を続ける。
次に椅子へ手をかけたとき、わざわざ下を確かめずに動かせた。
足と手の位置を考えるために、相手から目を離さなくていい。
同じ動きを、もう一度やった。
今度も、途中で途切れなかった。
鏡で顔を見ると、動いている間も表情が急に戻っていない。
俺は椅子を元へ戻した。
(これ、楽だな)
ただ動作が速くなるわけではなかった。
迷う顔をしている間に、手だけで紙を揃えることもできる。そのまま相手を見て、返事を待てる。
日曜日に森野さんがやっていたことへ、少し近づけた気がした。
もう一度、最初から試した。
*
その午後、一時間だけカラオケの部屋を借りた。
七百二十円。
家で出せない大きさの声で、台詞から歌へつないでみる。
役の声を作ってから歌い始めても、歌唱の使い方はわかった。声を変えすぎず、そのまま旋律へ乗せられる。
歌う間も、顔や手をどこへ置くかで迷う時間が減っていた。
歌が終わったあと、俺は部屋の端末を見た。
残り時間がある。
(もう一回。今の、もう一回やりたい)
練習しているのに、途中から、単純に楽しくなっていた。
帰る前に、石倉さんから来ていた相談へ返事をした。
読書フェアの案内に使う、十五秒の歌。
今度は主旋律と、その上へ重ねる声も録ってほしいという。二万円、交通費込み。来週月曜日の午後に九十分、必要なら短い追加を一回。
撮影の翌々日だった。
台本と日程を見比べ、勤務に間に合うことを確かめてから、引き受けると返した。
支払いは、映像の仕事と同じ木曜日。音楽の使い方は、フェアの案内映像と公式ページで二週間だった。
新しい歌も、聞いてみたかった。
*
家へ戻って、ゲームを開いた。
次のプラントは、今すぐ買える値段ではない。それでも、今の速度なら撮影が終わったあとに届く。
所有数が七基になったら止まるよう、自動購入を設定した。
そのあとで、明日の集合場所を確認する。
実際に撮る部屋へ、初めて行く日だった。
俺は台本と、送られてきた歌の資料をバッグへ入れた。
できるようになった動きも、明日、そこで試してみたかった。




