第6話 一ポイントの晩ごはん
スーパーで、唐揚げ弁当を手に取った。
いつも買うやつだ。温めればすぐ食べられるし、唐揚げはだいたいおいしい。
食事は、ちゃんと腹いっぱいになるものがいい。安く済ませたつもりで、あとからパンまで買うのは嫌だった。
この弁当は、ご飯もけっこう入っている。考えるのが面倒な日は、だいたいこれだ。
そのままレジへ向かおうとして、卵が残り二個だったことを思い出した。
卵と玉ねぎを買えば、家にある米で何食か作れる。今日はこれからバイトもない。食費を考えるなら、そっちのほうがいい。
卵を籠へ入れ、玉ねぎも取った。
腕には、まだ唐揚げ弁当があった。
(おい。何で増やしてるんだ。節約はどうした)
弁当を棚へ戻し、レジに並んだ。自炊する気になって買った食材を冷蔵庫へ入れ、そのあと弁当を食べるところだった。
唐揚げは、また今度にしよう。
*
アパートに着くと、六時になるところだった。
買ったものを冷蔵庫へしまい、上着を脱ぐ。夕食の前に、少しだけゲームを見た。
帰り道に組立ラインを増やしたので、毎秒四百八十四万ほどになっている。スーパーで買い物をしている間にも、かなり貯まっていた。
次の合成ユニットを開く。
【次の購入価格:80,000,000,000】
八百億。最初の一基から、八倍だ。
(二個目なんだから、ちょっとは安くしてくれよ)
生成炉は二倍、組立ラインは四倍ずつ高くなった。新しい設備ばかり買っていると、次の一つが急に遠くなるらしい。
安いほうも見直すと、生成炉が六基のままだった。
今なら、少し増やしておける。
六基買い足し、十二基にした。使ったのは、合わせて四億三百二十万。追加で毎秒四万八千増えるので、二時間半もすれば使った分を取り戻せる。
【生産速度:4,896,128/秒】
合成ユニットほど派手ではないが、ちゃんと増えるのはいい。
次の炉は一基だけで四億を超えていた。ここからは買わずに待とう。
合成ユニットの二基目まで、あと三時間弱。八百億をその一基で取り戻すには、五時間半ほどだ。
今夜買えば、起きる頃には元も取れている。
実績のほうも確認した。
【次の実績:累計100,000,000,000キューブ生産】
【報酬:スキルポイント×7】
こっちも今夜には届きそうだった。
もう少し見ていたかったが、お腹が鳴った。朝のパンと卵から、何も食べていない。
ゲームを閉じ、冷凍ご飯を出した。卵と玉ねぎがあれば、炒飯くらいは作れる。
玉ねぎを半分に切って皮をむき、残り半分を包む。使うほうを細かく刻み始めたが、端ばかり細かくなって、真ん中に大きな塊が残った。
押さえ直して切ると、小さいものがまな板から落ちる。
拾って捨て、手を洗った。
(あの弁当、もう食べ終わっていた頃だろうな)
まな板の前へ戻ってから、ふと思い出した。
料理があった。
スキルの一覧だ。歌唱の近くに、ちゃんと並んでいた。
包丁を置いて、画面を開く。
【料理 Lv.0 → Lv.1】
【必要スキルポイント:1】
説明には、食材の扱い方や調理の技能が向上すると書いてある。
今も卵は焼けるし、米も炊ける。レベルがゼロなのは、この機能では強化されていないというだけだ。これを買えば、そこから少しうまくなるはずだった。
手持ちは四点。
歌唱を次に上げるには五点必要なので、今も足りていない。ここで一点使えば、その分は遅くなる。
でも、さっき確認した七点は今夜入る。
歌うのは好きだが、毎食その前に玉ねぎと格闘するのは、あまり好きではない。
一点で楽になるなら、かなり欲しい。
俺は確定を押した。
【料理 Lv.1】
【所持スキルポイント:3】
包丁を持ち直し、残った大きな部分へ刃を当てる。
さっきの持ち方だと切りにくい。それが気になり、手の位置を少し変えた。
刃を下ろす。
同じ幅で、もう一度。
今度は大きさがそろった。指を何度も置き直さずに済むので、速く動かしているつもりもないのに、残っていたところがどんどん小さくなる。
あっさり終わった。
俺は包丁を置き、まな板を見た。
さっきの細かいところと、今切ったところの違いがわかる。
こんなに楽なのか。
包んだ残り半分まで切ってみたくなったが、夕食にそんなに玉ねぎは要らなかった。代わりに、卵を二個割る。
調味料を出し、ご飯を温める。その間にフライパンを火にかけた。
いつもは炒め始めてから、卵を溶く器や醤油を探している。今日はその前に、必要なものが手元にそろっていた。
油を広げ、卵を入れる。まだ柔らかいうちに皿へ出し、同じフライパンで玉ねぎを炒める。
焦げそうになって慌てる前に、少し火を弱められた。
ご飯を加えるときも、塊を何度も上からつぶさずに済む。卵を戻して混ぜ、少し味を見た。
塩を足そうとして、止まる。
あとで醤油も入れるのだから、今はこれでよさそうだ。
手順を一つ終えるたびに、次が決まっていた。こんなに迷わず作れたのは、初めてだった。
*
皿へ盛って、テーブルに運んだ。
店の写真のような、きれいな山にはならなかった。卵の多い焼き飯だ。腹が減っているので、見た目はそれで十分だった。
一口食べる。
「……うまい」
玉ねぎが硬くない。
卵も柔らかいし、醤油が一か所だけ濃くなっているところもなかった。次の一口も、ちゃんと同じくらいの味がした。
俺は皿を少し手前へ寄せた。
材料は、いつものものだ。高い調味料を買ったわけでもない。
それでこれが食べられるなら、一点使ってよかった。
自分で作って、自分で食べているだけなのに、少し得意な気分になった。食べ終わる前から、また作ってもいいと思っている。
歌唱だけではなかった。
スキルに振れば、こうして毎日のことも変わるらしい。ほかの項目も試したくなり、画面を開こうとしてやめた。
先に、温かいうちに食べよう。
皿を空にして台所へ戻ると、フライパンと器が残っていた。
(くそ。弁当なら箱を捨てて終わりなのに)
フライパンを流しへ運び、水を出した。次は使う皿を一枚減らそう。
流しを片付け、冷蔵庫を開く。
明日のバイトは夕方からだ。出勤前に作れば、弁当を買わずに済む。
使いかけのキャベツがあったので、手前へ移した。卵もまだある。これなら、また何か作れそうだった。
*
九時を十五分ほど過ぎたところで、ゲームを開いた。
使えるキューブが、八百億を超えている。
合成ユニットの二基目を買うと、増え方がまた速くなった。
【生産速度:8,896,128/秒】
数時間前には百億まで待っていたのに、今は百億なら二十分もかからない。
昼に買った一基が、ちゃんと次を買えるようにしてくれた。こうやって増やすから、安い設備から触った時間も惜しくない。
その下には、新しい改良が出ていた。
【合成工程の改良:500,000,000,000】
【すべての合成ユニットの生産量 ×2】
五千億。
一見遠いが、今の生産なら、寝て起きてから少し待てばいいくらいだ。今日は、ここまでにしておこう。
累計一千億の実績から七点を受け取り、スキルの欄を開く。
【所持スキルポイント:10】
料理に一点使っても、歌唱を上げる五点は残った。
倍率を四倍から八倍にするには十六点必要なので、全部はまだ買えない。先に歌唱を上げるか、次の報酬まで残すか。
今日はもう、大きな声を出せない。
試すなら、次に部屋を借りたときにしたかった。できるようになったとわかった瞬間に、近所のことを気にして黙るのはつらい。
藤崎さんとのやり取りを開く。
今日の練習は終わったけれど、相原さんが次の休みを送ってくれると言っていた。また行ける日が決まるのが、楽しみだった。
スマホを置いて、洗濯物を畳んだ。
そのあと、明日作れそうな料理を一つだけ調べる。キャベツと卵なら、無理にいろいろ買い足さなくてもよさそうだ。
先に米を研ぎ、炊飯器の予約を合わせた。
弁当を作るために、前の晩から米を用意している。
昨日の俺には、たぶん想像できない。
明日は少し多めに炊くことにした。




