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第56話 画面の俺は、もう誘っている

 月曜日に届いた完成版には、名前と出演時間が入っていた。


 俺が話している横に、日曜日の午後一時半と表示される。最後には、会場の広場も小さく映った。


 十五秒で、聞いてほしいことがちゃんと入っていた。


 俺は確認の返事を出した。


 同じ日に、石倉さんから、パン店の映像も今日から使われていると連絡があった。店側の確認は済み、追加で録る必要もないという。


 そちらへも返事を送る。


 歌った二十秒と、話した十五秒。


 スマホの中に、完成した仕事が二つ並んでいた。


     *


 水曜日から、出演の映像が使われ始めた。


 宮田さんから届いた施設の案内ページを開くと、写真の下に再生ボタンがある。


 押した。


 俺が出た。


 名前を言って、日曜日に聞きに来てほしいと話している。


 ページを下へ送ると、出演する曲の一部も載っていた。『日なたのベンチ』と『ひとつ先の週末』が並んでいる。


 俺は、もう一度上へ戻した。


 (いつでも見られるな、これ)


 見せるために撮ったのだから、そうなる。


 確認用の映像を受け取ったときより、少しだけ手が落ち着かなかった。


 それでも、再生ボタンはもう一度押した。


     *


 木曜日、出勤してすぐ、店長に呼ばれた。


「久瀬くん、見たよ」


 事務所の入口で、スマホをこちらへ向けられる。


 あの案内ページだった。


「……ありがとうございます」


「映像もあったんだね。ちゃんと知らせてよ」


「昨日、始まったので」


「じゃあ、ちょうどよかった」


 店長が再生した。


 隣で、自分の声が流れ始めた。


 店長が見ている間、どこを見て待てばいいのかわからず、結局、俺もスマホへ目を向けた。


 十五秒。


 今までで、一番長く感じた。


 (本人の横で再生するの、結構くるな)


 映像の俺は、気軽に聞きに来てほしいと笑っていた。


 こちらには、その余裕があまりなかった。


     *


 藤崎さんも、エプロンを手にして事務所へ来た。


「あ、私も見た。思ったより、ちゃんと笑ってたね」


「……練習しました」


「そうなんだ。いつもより、誘ってくる感じだった」


「誘う映像なので」


「そっか、そうだね」


 藤崎さんが笑い、店長もスマホをしまった。


 説明としては合っていたはずだが、もう少しほかの答え方はあった気がする。


 ただ、見たことを普通に話してくれたので、少し安心した。


 珍しいものを発見したように、ずっと見比べられることはなかった。


「日曜日、私も聞きに行くつもり。夕方からだから」


 藤崎さんが言った。


「……ありがとうございます」


「あの録った曲も歌うんでしょ?」


「はい。真ん中で、全体を歌います」


「楽しみ。入口で聞いた続き、まだ聞いてなかったから」


 俺はうなずいた。


 日曜日に広場へ一人で行ったとき、藤崎さんは一緒ではなかった。


 今度は、録音の再生ではなく、俺が歌って聞いてもらえる。


 ちょっと、得をしたような気分になった。


     *


 休憩に入ってから、三人のグループへ案内ページを送った。


『日曜の一時半からです。ひとつ先の週末も全部歌うことになりました』


 その下に、『日なたのベンチ』も歌うと書いた。


 相原さんからは、少しして返信が来た。


『動画、いいじゃん。日曜は用事があるんだけど、時間が合えば寄りたい』


 続けて、ワークショップが開かれる前の仕事帰りに、入口の歌も聞いたとあった。


『ちょっと待った。最初、飲食店の案内だった』


 俺は、あの画面の前を思い出した。


 ちゃんと順番を待って、聞いてくれたらしい。


『ありがとうございます。俺も待ちました』


 送ると、藤崎さんがすぐに返した。


『久瀬くんは二周した』


 (そこは報告しなくていいだろ)


 相原さんから、笑っている顔の絵が届いた。


 否定はできないので、そのままスマホを伏せた。


     *


 金曜日の昼、最後の練習に行った。


 一時間の部屋で、曲順どおりに歌う。


 『日なたのベンチ』のあと、一度マイクを下ろして、三曲目の紹介も言ってみた。


「先日のワークショップの映像で、歌を担当しました。今日は、その曲を最後まで歌います」


 そこから、伴奏を流す。


 入りは、録音したものに近い柔らかさにした。


 中盤から少し声を広げ、最後のサビで、もう一段明るくする。


 息を使い切らず、終わりの言葉まで残せた。


 そのあと『四月の傘』を挟み、最後に『帰り道』を歌った。


 五曲を続けても、声は出た。


 好きな高いところで、まだ余裕がある。その余裕を全部声の大きさへ変えず、伸ばしたい音へ使えるのが気持ちよかった。


 歌い終え、スマホの時間を止めた。


 曲と紹介だけなら、二十五分には余裕がある。


 本番は拍手を待つ時間も取る。最後の礼まで終えてから、舞台を渡す予定だった。


 残りの部屋の時間で、『日なたのベンチ』をもう一回入れた。


 今日は、全部を通したあとだ。


 (今度は、好きなだけでいい)


 前奏を聞きながら、少しマイクを持ち直した。


 これを、日曜日にも歌う。


 画面の俺は、もう何度も人を誘っている。実際に来た人へ歌うほうも、早くやりたかった。


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