第48話 完成した歌の代金
木曜日の昼、石倉さんから届いた音を開いた。
題名のあとに、完成確認用、とついている。
長い曲と、映像の二つだった。
先に、二分十八秒のほうを流した。
ギターの前奏が聞こえる。
その中へ、俺の声が入った。
試しに録ったときより、伴奏と声が一緒に聞こえる。
声だけが飛び出しているところがなく、弱く歌った言葉も聞き取れた。
俺は椅子へ座り直した。
一番が終わり、二番へ進む。
先を知っているので、途中で一緒に歌いたくなった。
今日は、自分の声を聞くほうを先にした。
*
最後のサビへ入った。
俺が、もう少し声を出したいと頼んだところだった。
前半の近い声から、明るく広がる。
高い音が伸びた。
そのまま次へつながり、最後に柔らかく閉じる。
声が消えてからも、少しだけ伴奏が続いた。
曲が終わる。
俺は、すぐにはスマホを触らなかった。
好きだった。
あの最後まで聞くために、もう一度最初から流してもよかった。
ただ、映像の確認がまだある。
もう一つのファイルを開いた。
*
三十秒の映像では、場面が軽く切り替わっていった。
手元へ並ぶ材料。
色を選んでいる人。
隣の人へ、できたものを見せる手。
俺の声が、その上で歌っている。
最後の一行へ近づいた。
声を弱くしても、言葉は残っていた。
催しの名前が出て、日時と場所が続く。
そこで、映像が終わった。
俺は、最後のところだけ、もう一度見た。
火曜日に録り直した音だった。
こうなったものを、今度は、知らない人が施設で見る。
画面を閉じ、石倉さんへ返事を書いた。
『確認しました。この内容でお願いします。最後のところも、聞きやすくなっていて嬉しいです』
読み返してから送る。
少しして、返事が来た。
『ありがとうございます。では、こちらを最終版としてお渡しします』
俺はうなずいた。
これで、俺が歌うところと、確認するところは終わった。
*
翌日の昼、口座の入金を確かめた。
三万円。
石倉さんから、振込の連絡も届いていた。
金額を照らし合わせ、受け取ったことを返す。
スマホを置いてから、もう一度持ち上げた。
三万円、増えている。
前の公演では、二万円を現金でもらった。
今回は、口座へ入った数字を見ている。
どちらも嬉しかった。
(しばらく、ここは見ていられるな)
そう思ったところで、キューブもいつも見ていることに気づいた。
増えた数字を見るのが好きなのは、相変わらずだった。
*
ノートを開き、今回の分をまとめた。
試し録りが、五千円。
正式な依頼が、三万円。
制作室へ行ったのは、三回だった。
電車は、往復四百八十円ずつ。
それと、曲を試した部屋の七百二十円。
引いてみると、三万二千八百四十円が残った。
前の公演の分とは、別の行に書く。
賞金を取ったところから、一つずつ増えていた。
何か月も先の予定が埋まっているわけではない。
それでも、今までなかった入金が、また一つあった。
俺はペンを置いた。
これで次の依頼が来たら、また歌いたい。
まず金額だけ見て喜び、あとで歌う時間を見て、そこでも喜びそうだった。
*
石倉さんから、上映が始まる日の案内も届いた。
来週の木曜日から、館内で流れる。
その週の日曜日が、催しの当日だった。
日付をカレンダーへ入れる。
木曜日は、夕方まで空いていた。
昼に見に行ける。
そこまで決めてから、返事を書いた。
見に行くつもりだと伝えると、石倉さんから続けて返信が来た。
『今回、歌い方を変えてもらうのが早くて、とても助かりました。また短い歌などで、空いている日をご相談できればと思っています』
メールを、もう一度読んだ。
次も相談してくれるらしい。
嬉しくなって、すぐに返信の欄を開いた。
『ぜひお願いします』
先に、そう打った。
そのあとに、勤務の予定を確認して返事をすることも書き足す。
いつでも行けます、とは言えなかった。
でも、相談してほしいことは、ちゃんと伝えておきたかった。
*
夕方、店へ行く前に、日曜日の歌会で使うものを揃えた。
『四月の傘』の歌詞を確かめる。
こちらは、いつもの好きな曲だった。
新しい曲を作るところへ関わってみても、歌いたい曲が、そちらだけになるわけではない。
佐伯さんの前でも、あの曲を一度歌ってみたかった。
机の上で、二枚の紙を重ねかけて止めた。
石倉さんの曲の歌詞は、家へ置いていく。
歌会へ持っていくほうだけ、バッグへ入れた。
相原さんとのグループには、一時四十分頃に駅へ着く予定だと送る。
藤崎さんからも、同じくらいに行くと返ってきた。
俺は財布を開き、百円玉を四枚、取り出した。
一度数えて、小銭入れの手前へ寄せる。
録音の仕事が終わったあとも、歌いに行く予定がある。
日曜日は、二人が何を歌うのかも聞きたかった。




