第46話 買っておいてくれるボタン
土曜日の昼、ゲームの強化欄を開いた。
木曜日に出ていた、自動購入の説明を読む。
【自動購入】
【価格:500兆キューブ】
【対象設備を一種類指定できます】
【指定した所有数に達すると停止します】
買えるようになった設備を、自動で買ってくれる。
値段は通常どおりで、所持キューブから払う。
生産そのものが増える改良ではなかった。
ただ、寝ている間や、店で働いている間に買ってくれるなら、その分だけ早く動き始める。
俺は、昨日の録音を思い出した。
マイクの前で、歌詞を見ながら、次にどう歌うか考えていた。
あの間に工場を開く気にはならなかった。
使えそうだ。
購入した。
*
対象を選ぶ欄が出た。
炉。組立機。合成装置。
その下に、複製プラントと増殖中枢がある。
今のところ、次に買いたいのはプラントだった。
四基目は、四・〇九六京。
中枢の三基目より、ずっと早く届く。
中枢が二基になったので、プラントを増やして接続したときの生産も大きくなる。
俺は複製プラントを選んだ。
次に、所有数の上限を指定する。
四。
現在は三基なので、あと一基だけ買えば止まる。
【対象:複製プラント】
【停止条件:所有数4基】
【現在:3基】
設定を見直した。
購入回数が四回、ではない。
手持ちを合わせて四基で止まる。
説明も、そうなっていた。
動かす。
【必要キューブを待っています】
その表示を見て、俺は少し前へ寄った。
(お前も待つのか)
今すぐ買ってくれるわけではない。
当然だったが、買った機能が最初にしたことは、俺と同じ待機だった。
明日の朝には、必要な分が貯まりそうだ。
画面を閉じた。
*
日曜日の朝、起きてからゲームを開いた。
所持キューブが、思ったより少なかった。
一瞬、目を止める。
設備の欄を見た。
【複製プラント:4基】
【自動購入:停止中】
【停止条件を達成しました】
買っていた。
履歴には、九時六分の購入が残っている。
俺が寝ていた間だ。
【生産速度:193,362,864,256/秒】
千六百十億ほどから、千九百三十三億ほどになっていた。
増えたプラントが、二基の中枢へつながっている。
買い終わったあとは、指定どおり止まっていた。
五基目まで、勝手に買い続けることはない。
俺は履歴をもう一度見た。
起きて、残高を確かめて、ボタンを押すところまで、もう済んでいる。
(これは、楽だな)
布団へ戻りかけて、時計を見た。
店へ行く準備までは、誰もしてくれなかった。
今日は昼からシフトが入っていたので、そのまま台所へ向かった。
*
月曜日の昼、実績の欄に印がついていた。
開くと、累計十京を超えた報酬だった。
【スキルポイント×13を受け取りました】
【所持スキルポイント:31】
昨日、働いている間に届いていたらしい。
履歴を確かめてから、歌唱を開いた。
【歌唱 Lv.7 → Lv.8】
【必要スキルポイント:21】
買える。
ようやく、買えるようになった。
恒久強化のほうも、一度見る。
【基礎生産倍率 ×16】
【必要スキルポイント:32】
一点、足りなかった。
(だから、そういう残り方をするなよ)
笑ってから、歌唱へ戻した。
ここで待っていれば、次の報酬を倍率へ回せる。
でも、次は百京だった。
明日は、石倉さんのところへ行く予定がある。
録った声の中で、一つ気になっているところもあった。
今度こそ、先に歌を試したかった。
購入した。
【歌唱 Lv.8】
【所持スキルポイント:10】
首のあたりを一度触ってから、手を下ろす。
見た目には、何も変わっていなかった。
*
小さく、明日の曲を口ずさんだ。
いつもの声だった。
そのまま、音を少し弱くしてみる。
前なら、ここまで弱くすると、息が多く混じっていた。
今日は、声の響きを残したまま小さくできた。
もう一度、同じ音を出す。
柔らかくても、言葉が薄くならない。
俺は机へ手をついた。
これなら、あそこも変えられそうだった。
スマホで、石倉さんから届いていた確認用の音を開く。
本録音を整えた、三十秒のほうだった。
終わりの一行を聞く。
映像の長さに合わせ、短く閉じたところだ。
合っている。でも、その手前から弱くした分、最後の言葉が少し薄くなっていた。
今なら、同じ長さのまま、もう少し声を残せる気がする。
石倉さんへ送る文章を打った。
『短い版の最後だけ、もう一度試してもいいですか』
どこか伝わるように、時間も添える。
できるかどうかを家で何度も悩むより、あのマイクの前で歌ってみたかった。
送ってから、もう一度小さく声を出した。
音を弱くしても、消したくないところまでは残る。
嬉しくなり、少し大きく歌いかけた。
壁を見て、やめる。
隣の部屋の人に、新しいスキルの確認へ付き合ってもらうわけにはいかなかった。
(明日、ちゃんと歌う)
最後の一行だけ、小さくもう一度なぞった。




