第34話 古い工場にも、仕事が増えた
月曜日の昼、注文していた充電ケーブルを枕元へ引いた。
二メートルある。
寝返りを打っても抜けない。起き上がって、スマホを机に置くところまで届いた。
袋を捨ててから、頭の中のゲームを開く。
こちらは、ケーブルも充電も要らなかった。
【所持キューブ:約1,230兆】
昼の十二時。
待っていた設備が、買えるようになっていた。
【増殖中枢】
【価格:1,200兆キューブ】
【基礎生産:10億/秒】
一週間前に見たときは、残り四百兆以上あった。
寝て、店へ行って、歌っている間に貯まった分だ。
途中でほかの設備を買わなかったので、予定どおり届いた。
購入する。
【増殖中枢:1基】
【生産速度:8,722,864,256/秒】
毎秒七億ほどだった数字が、八十七億を超えた。
所持キューブを見ていると、減ったばかりの桁へ、もう次の数字が入っていく。
一秒待つ。
さらに八十七億。
俺は椅子へ深く座り直した。
(いいな、これ)
同じ数字を眺めているだけで、しばらく動きたくなくなった。
*
増殖中枢の下に、新しい改良が出ていた。
【複製接続】
【価格:600兆キューブ】
【複製プラント1基につき、増殖中枢の基礎生産に50%を加算】
説明を開く。
プラント一基なら一・五倍。二基なら二倍。
中枢が増えても、すべてに効果がある。
俺の複製プラントは、今、二基だった。
つまり、これを買うだけで、さっきの中枢が二基分になる。
値段は半分。
(先にこっちだな)
所持キューブは、まだ三十兆ほどしかない。
それでも、生産速度が上がったので、明日の昼には買える。
改良の説明を閉じかけ、もう一度、複製プラントの欄を見た。
三基目は、二千五百六十兆。
高いので、しばらく後回しにしていた設備だった。自分の生産だけでは、そこまで貯めて買いたい値段ではなかった。
でも、接続したあとなら、中枢の生産も増やせる。
中枢一基の半分に、今の全体倍率をかけて、毎秒四十億。それに、プラント自身が作る分も足される。
俺は机のメモを取った。
上位の設備を買うと、前の設備は押さなくなることが多い。
このゲームでは、残してある二基が、また役に立ちそうだった。
次の中枢は、三万八千四百兆。
そこまで一気に待つより、先にプラントを増やしたほうがよさそうだ。
明日、接続。
そのあと、プラント三基目。
書き終わり、ようやく昼飯を作るために立ち上がった。
*
火曜日の昼には、七百八十兆以上になっていた。
複製接続を買う。
【複製接続:有効】
【増殖中枢への加算:+100%】
【生産速度:16,722,864,256/秒】
毎秒、百六十七億。
ここまで来ると、昨日の八十七億へ戻るのが遅く感じそうだった。
設備一覧の中で、二基のプラントと一基の中枢に、小さな同じ印がついた。
それだけの表示なのに、つながった感じがした。
俺は一覧を少し下へ送った。
この先も、別の設備同士をつなげられるのだろうか。
今はまだ、それらしい説明はなかった。
指で操作しているわけでもないのに、もう少し下へ送れないか試してしまった。
スマホの通知が鳴った。
ゲームを閉じて、机の上へ手を伸ばす。
*
宮田さんから、伴奏の確認が届いていた。
送った四曲は、すべて用意できるそうだった。キーも、原曲のままで問題ない。
曲の長さは、メモしたものと同じだった。
『帰り道』は四分四十秒。
『四月の傘』は四分十秒。
『晴れたら遠回り』は三分三十秒。
『駅まで五分』は三分五十秒。
確認用の音を、最初と最後まで聞いた。
練習したところと入り方も終わり方も同じで、別の場所に急に間奏が増えることはなさそうだった。
添えられた案内には、賞状を持った俺の写真が載っている。
『歌唱コンテスト優勝 久瀬凪』
その下に、一時と三時の開始時刻。
出演者は俺だけなので、写真の隣にほかの人はいなかった。
拡大して、名前を確かめた。
間違っていない。
写真も、先日見せてもらったものだ。
しばらく見てから、二人のグループへ送った。
『案内ができました』
それだけ書いた。
本当は、どう見えるか聞きたかった。
藤崎さんから、ほどなく返事が来た。
『ちゃんと歌う人のポスターになってる!』
俺は写真をもう一度開いた。
(そうなんだよな)
文字も飾りも、自分では何も作っていない。それでも、この顔で歌う人として載っているのは嬉しかった。
*
木曜日の夕方、食事の前にゲームを開くと、三千四百兆を超えていた。
複製プラントの三基目を購入した。
【複製プラント:3基】
【増殖中枢への加算:+150%】
【生産速度:21,042,864,256/秒】
百六十七億から、二百十億へ。
プラントの生産だけなら、こんなには増えない。中枢へつなぐ改良を取った分が、きちんと加わっていた。
買った設備の数は三基。
前の二基も、ずっと動いている。
古い欄へ戻って買い足すのが、少し楽しかった。
次はどうするか、値段を並べる。
四基目のプラントは四万九百六十兆だった。次の中枢も、まだ遠い。
ひとまず、貯める。
実績の欄を見ると、累計一京までの数字がかなり減っていた。
今の速度なら、出演する日の朝には届く。
報酬は、十二ポイント。
今持っている六点と合わせれば、十八点になる。
歌唱を八にするには、二十一点必要だった。
あと三点。
(そこ、端数でまけてくれないかな)
購入ボタンは、当然、灰色のままだった。
でも、七になった声で四曲を歌うのは、まだ二回しか通していない。
日曜日は、それを客の前で聞いてもらえる。
俺はゲームを閉じ、スマホに届いた案内をまた見た。
一時から。
三時から。
自分の名前の下に並ぶ二つの時間を確かめてから、夕飯のご飯をよそった。




