第22話 二番からも、俺の番
翌日の昼、本選の案内が届いた。
朝ご飯の皿を洗ったあとだったので、手を拭いてからスマホを持つ。件名に自分の名前があるだけで、少し姿勢がよくなった。
受付は十一時から十一時半。
参加者への説明が十一時四十分、歌は正午から。
前半と後半が六人ずつで、間に十五分の休憩がある。すべての歌が終わるのは一時四十分ごろ、結果発表は二時十分の予定だった。
先週より短い。助かる。歌っている時間より、待っている時間のほうが疲れた気がする。
自分の歌は、一番だけから一曲全部に増えていた。そこは楽しみだった。
出演順を開く。
【出演番号:10】
予選の三十八番とは違っていた。
今度は十二人の十番なので、やっぱり後ろのほうだ。
待機場所へ行くのは、自分の出番の二人前。八番の人が歌い始めたら、客席右側の係員に申し出ればいい。
案内をもう一度読んでから、三人のグループを開いた。
藤崎さんは四番、相原さんは七番だった。
『今度も二人の歌、聞けるね』
藤崎さんから届いている。
四番と七番。
八番で移動なら、どちらも最後まで客席で聞ける。
『はい。楽しみです』
送ってから、もう一行打った。
『本番、俺のスマホで録音をお願いしてもいいですか』
昨日の帰り道で決めたことを、忘れないうちに頼んでおく。
返事はすぐに来た。
『もちろん。今度は一曲分だね』
スマホをテーブルへ置いた。
よかった。
これで、歌い終わったあとに自分で聞ける。まだ歌ってもいないのに、帰り道の楽しみが一つできていた。
*
曲の確認欄を開いた。
曲名は『帰り道』、原曲のキー。
予選と同じ内容が表示されていて、変更する場合は入力し直すようになっている。
少し下へ送ると、使用する音源の案内もあった。予選と同じ系統のカラオケ音源で、一曲通して流れる。
相原さんに弾いてもらったときのように、終わりを待ってもらうことはできない。その代わり、決まった伴奏の中で声を収める歌い方は、もう試してある。
イヤホンをつけ、『帰り道 予選用』を再生した。
自分の声が入る。
少し前までなら、録音の歌い出しを聞くだけで顔が熱くなっていた。
今は、その先の好きなところまで早く進んでほしいと思う。
一番の最後まで聞いた。
ここで止めた録音では、当然、二番は始まらなかった。
今度は、そこから先がある。
中学生のときに歌えなかったサビを、最初の夜に歌えた。次の日には、自分の声を録って、もっとこうしたいと思った。
それからずっと、一番をどう歌うかを考えてきた。
でも、この曲は一番で終わりではない。
原曲を開き直す。
二番の出だしは、サビから少し落ち着いて始まる。言葉の数が多いところもあり、そのあとに長い間奏が来る。
最後のサビへ戻ったとき、最初と同じ歌い方にはしたくなかった。
もう少し、そこまで歌ってきた感じが残るといい。
声に出そうとして、壁を見た。
家だった。
昼でも、ここで本気で試すのはやめておこう。サビまで歌ったら、隣の部屋に聞こえてしまいそうだった。
声を小さくして、言葉を口の中で追った。
これでは、よくわからない。
やっぱり歌いたい。
*
三人のグループへ、明後日の予定を聞いた。
相原さんは休みで、藤崎さんも午後なら空いていた。三時から二時間でどうかと送ると、二人から返事が来た。
店へ電話して予約する。
勤務で使っている場所なのに、自分の名前を客として伝えるところは、まだ少し慣れない。
「三名様で、十五時から二時間ですね」
「はい。お願いします」
「お待ちしております」
電話が切れてから、カレンダーへ入れた。
本選四日前の三人練習。
それとは別に、本選前日の夕方も、一人で一時間だけ予約した。
次の実績が受け取れる時間に合わせた。
ゲームの数字を見てカラオケを予約する人は、あまりいないと思う。
俺には、かなり大事な予定だった。
*
画面を切り替え、設備の値段を見直した。
合成ユニットの六基目は、もう買えた。
ただし、三百二十七兆六千八百億かかる。
増える生産は、今の倍率で毎秒千六百万。使った分を取り戻すまでの日数を出すと、かなり先になった。
前の一基より、ずいぶん高い。
複製プラントの三基目は、二千五百六十兆だった。こちらは、まだ届かない。
所持数が増えると、全部使ってしまいたくなる。
それでも、購入ボタンが明るいだけで押していたら、貯めた分はすぐになくなる。ほかの設備や改良も、いったん並べてから決めたい。
今日は、このまま貯めておこう。
買わないと決めたあとも、合成ユニットの欄を少し見ていた。
(もういい。見るな。見てると買う)
閉じた。
予約した部屋で歌うほうを考えよう。
*
曲の確認メールへ戻り、変更なしで送信した。
受付完了の表示が出る。
『四月の傘』も好きだし、ほかに歌ってみたい曲もある。けれど、来週は『帰り道』がよかった。
一番を気に入ってもらえたから、二番からも聞いてほしい。
最後の高いところを、最初の夜よりいい声で歌えたら、たぶん自分でも嬉しい。
原曲をもう一度再生した。
間奏のあとを聞きながら、メモに短く書く。
『最後は、一番より少し強く』
その下に、もう一行。
『二番の出だしを急がない』
書いている間に、ゲームの表示を思い出しかけた。
キューブのほうは、放っておいても増える。
今はこの曲を、最後まで聞いていたかった。




