第174話 二人で、残ったものを食べる
次の金曜日、店の奥で夕飯を食べる場面には、簡単な麺と皿に残ったおかずがあり、兄が多いほうを弟へ渡した。
陸はそんなにいらないと皿を兄のほうへ返し、少しだけ取り返すので、二人とも、相手に先に食べてほしいまま箸を持っている。
言い争うほどでもないやり取りを、川瀬さんが少し長く撮りたいと言ったので、俺は相手が食べるところまで待つことにした。
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若松さんが麺を持ち上げ、飲み込んでから、今も同じ味だと話すと、俺は箸を持ったまま返した。
「作るの、俺になったけど」
「……そうか」
兄の箸が少し止まっても、大きく謝るところにはならなかったので、弟もそこで怒って食事を終えず、もう一口食べた。
「足りなかったら、まだある」
兄の皿へ目を向けて言うと、若松さんが笑い、ここでは聞くことばかりだと、少し困った声で返した。
「店も、飯も、おまえに聞くことばっかりだな」
「聞かないと、勝手に捨てるから」
その顔を見てから俺も少し笑った。兄が水を飲むまで待ち、食べるほうへ戻ったところで、場面が終わった。
川瀬さんが続けて見せた映像では、若松さんが先に笑い、そのあと俺の顔が緩んでいて、一人ならそうはなっていなかった。
「兄が、自分で困ってるって分かったので」
俺がそう答えると、川瀬さんはその部分へ戻した。店を助けるつもりの兄が、何も知らないと自分で言えたので、陸も一緒に食べていられた。
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休憩には撮影の料理とは別の弁当をもらい、若松さんが、役で食べたあとでも腹は減るんだなと言って蓋を開けた。
「何口か、同じところばかり食べたので」
「俺、あの麺だけ上手に持てるようになった」
俺も笑って蓋を開けた。角度を変えて撮るたびに箸を出す手は揃えたが、兄が笑うところでは、そのたび顔を見て待っていた。
同じ一口を何回も食べる日でも、相手が先に笑うと俺の顔も動いたので、次の場面も一緒にやるのが楽しみだった。
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日曜日、前の月の十セット分、三千二百円が入ると、俺は受領の返事をして、最初の一万二百四十円とは別の行へ記した。
最初の月より数は少なく、毎月倍にはならなかったが、発売日を過ぎてから買い、聞いてくれた人もいると、この入金で確かめられた。
今月の途中の数を見ても、まだ締めた分ではなかったので、入った数字だけに印を付け、映画の後半の台本を机へ置いた。
撮影は六日を終え、残る四日には夜の店と最後の鍵がある。棚の本を減らすのは最後なので、次にはまだ、今の店へ立つ。
夕飯を作って一人で食べていると、役で見た兄の皿を思い出したところへ、若松さんから連絡が届いた。
次の夜の場面を声に出して読み合わせたいというので、食べ終わってからならと返し、先に皿を洗った。
十分ほどして電話をつなぐと、今日は相手の顔が見えなかった。俺は台本の次の言葉よりも先に、今来た声を聞いた。




