↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
167/180

第167話 今日は、先輩の曲です

 木曜日、映画の弟役を引き受ける返事をすると、川瀬さんから、兄役の若松さんにも伝えるという連絡が来た。


 前の月曜に店長へ相談し、撮影と重なる金曜の二回だけ交替してもらう代わりに、その前の水曜に二回働くと決めてある。


 月曜の撮影は四時までに終えて六時の勤務へ来ることを川瀬さんにも伝え、勤務のない水曜の読合わせも確かめて受諾した。


 台本の表紙へ自分の名前を書くと、読むために持っていた本を、今度は自分が弟をやるために持っていけるようになった。


     *


 土曜日、藤崎さんの歌を聞きに行き、千八百円を払って壁際へ座ると、喫茶店の奥の小さい段には、別の人が立っていた。


 何人かが二曲ずつ歌う日なので、先に出た人のギターへ合わせた声を聞き、飲み物を置いて拍手をしているうちに、藤崎さんの順が来た。


 今日はマイクを受け取らず、ここから聞ける。最初の、聞いたことがある歌では、店の部屋より少しゆっくり言葉が出てきた。


 近くのテーブルの二人が顔を上げ、途中の拍手が引くまで藤崎さんも待ったので、俺はそのあとに入る声を聞いた。


 部屋で聞いたときとは違う間を取る先輩が、最後に短く礼を言い、自作を歌うと話したところで、少し座り直した。


「次は、自分で作った曲です」


 題名は『まだ、明かりがある』だった。


 ちゃんと付いているとわかって、俺は隣の鍵盤を弾く人へ向けた藤崎さんの顔を見て、始まりを待った。


     *


 前の部屋では携帯の伴奏で始めた歌が、今日は目の前の人の鍵盤と一緒に鳴り、低いところへ戻るあの音も聞こえた。


 そこから、もう一度声が出た。


 帰ったはずの建物に明かりが残り、誰かがまだ好きなものを作っているという言葉へ、俺の知らない二番も続いていた。


 藤崎さんがあのあとで作ったところだと、次の言葉を聞きながら、前に届いた短いファイルの終わりを思い出した。


 息を吸う場所を一緒に試した部分でも声は止まらず、俺は助言の跡を探すより、今歌っている続きを聞いた。


 最後に拍手をすると、藤崎さんが一度こちらを見て笑い、前へ戻ったので、俺もそのまま手を打ち続けた。


 隣で休憩している人が、今は自分の歌でほかの客にも聞いてもらっているのが嬉しくて、もう一回最後を聞きたかった。


 (でも、今日は二曲だったな)


 順番はそこで終わり、次の人が段へ上がったので、俺は席を立たず、その人の歌も最後まで聞いた。


     *


 全部が終わり、藤崎さんと話せるようになってから、俺は題名が間に合ったんですねと、先にそこを言ってしまった。


「そっちが最初?」


 少し笑われたので、今度は二番を初めて聞いたことと、最後に戻るところが好きだったことを伝えた。


「前はまだなかった。低いほうのあと、どこへ行くか迷ってた」


 藤崎さんは少し息を吐いてから、あそこを聞いてほしかったからよかったと言い、今の終わりを小さく歌った。


 伴奏の人にも、間の音が小さくなるところが聞きやすかったと伝えると、短くうなずいてもらえて、その部分をまた思い出せた。


 帰りに映画のことを聞かれ、長い役を引き受けたと答えたら、藤崎さんは、公開したら教えてと言った。


「今度は、私が座るほうだね」


「はい」


 まだ先の予定だったが、今日みたいに客席から見てもらえると思うと、兄役の人と会う日が、また少し楽しみになった。


 家では台本を開く前に、二番で好きだった言葉の感想を藤崎さんへ送り、自分の二曲も順に聞いた。


 最後までまた聞きたい歌を一つ増やして帰れたので、俺は机の台本を取り、今度は弟の声の続きを読んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。