第163話 最初の一件
日曜日の五時五十分、六時までには食べ終えるつもりだった夕飯が、机の皿にまだ少し残っていた。
携帯を見るたび箸が止まり、卵も冷めていたので、俺は先にそれを食べて、皿を片付けてから机へ戻った。
販売は制作室で使っているページから決めた時刻に始まり、完成した音も入っているので、俺が押すボタンはない。
それでも六時になると開き直し、四百円の下に購入へ進む表示が出ているのを見て、自分の案内を書いた。
『二曲、聞けるようになりました』
そこへ曲名を足して公開した。同じ二曲のことをまた知らせているが、今日から聞けることは、今日伝えたかった。
案内を閉じ、石倉さんから教わった売上の画面へ移ると、まだ零だったので、俺は携帯を机へ置いた。
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最初の一件は、六時十一分に来た。
携帯が鳴って販売成立の案内が出たので持ち上げると、一セット、四百円という表示があり、俺はそのまましばらく見ていた。
買った人の年齢も、どこで聞くかもわからないが、俺以外の誰かが、この二曲に四百円を出していた。
夕飯でも、買ったゲームでもなく、家の鍵盤で作って二人と録った音へ払ってもらえたので、声にしようとして口を開いた。
(……売れた)
息だけが出て、部屋には俺しかいなかったから、そのまま口を閉じた。言い直さずにもう一回見ても、一件の表示は変わらなかった。
少しして石倉さんからも、一件目が入り、音の受け取りまで完了したと連絡が来たので、今度はそちらにもほっとした。
制作室では確かめた音でも、買った人のところで聞けなければ困る。届いたとわかって、俺は返事の欄を開いた。
『ありがとうございます。今、見ています』
ずっと見ています、と書かずに送れたが、返事のあとに売上へ戻ると、また同じ一件を見てしまった。
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六時半すぎ、藤崎さんから、買えて先に二曲目を聞いたというメッセージが届き、売上の画面では二件になっていた。
どの注文が誰かは決め付けられないが、藤崎さんも今聞いているとわかったので、俺は二曲目から聞く順番へ返事をした。
『先に歩いてから、休んでもらっても』
今日はその順番にする、と返ってきて、俺が並べたほうとは違っても、先輩のところではもう二曲が流れていた。
俺も買った歌の順番をよく変えるので、次にどちらを聞くかを自分で選んでもらえるのが、少し嬉しかった。
七時前には、持っている完成音を自分でも流して、『休みの日』の最初の鍵盤から、言葉が入るところを聞いた。
値段が付いても音は変わらない。それでも、どこかで同じ声が鳴っているかもしれないと思うと、最後まで聞きたくなった。
二曲目も続け、高い声が主な声へ重なるところでは、売上を開かずに、作るときに好きだと思った音のほうを聞いた。
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九時に最後の確認をすると、今日の販売は四セットになっていて、俺は買った人へ届くお礼の文も読み直した。
公演から来た人も初めて聞く人もいるかもしれないが、誰が何人かはわからないので、聞いてくれてありがとうございます、とだけ置いてある。
買って聞いてくれる人に、まずそれを伝えたかった。文を変えずに画面を閉じ、明日の月曜の勤務を予定で確かめた。
携帯を充電につないで歯を磨く間も、二曲目の最後の声を口の中でなぞり、途中で、今はちゃんと磨けと思った。




