第162話 続きを聞きたいほう
月が替わった木曜日、石倉さんの送ってくれた紹介文を読むと、名前のあとに二十二歳と書かれていた。
カラオケ店で働いていた最初の頃から一年以上が過ぎ、今も同じ店へ通うが、夕方の勤務は月曜と金曜になっている。
ほかの日に歌や芝居の予定を入れ、自分の曲も二つできたので、俺は年齢と名前、それから曲の説明を確かめた。
家で過ごす時間と、帰り道を少し歩く時間が二行ずつあった。大きく書き直したくならず、そのままでよいと返事をした。
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午後、藤崎さんと客として一時間だけ部屋を借りると、先に携帯の伴奏を流して、日曜日に届いた歌を歌ってくれた。
静かな最初から言葉が少し詰まるところへ進み、あの二通りのうち低いほうへ戻ったあと、まだ聞いていない続きへ上がっていく。
そこで声にした言葉を最後まで聞き、俺は途中の低い音だけを聞いたときより、今の終わりが好きだと伝えた。
「低いほうだけじゃ、閉じた感じがしたんだよね」
藤崎さんはマイクを持ったまま、今歌った最後のところを小さくなぞってから、俺のほうへ顔を戻した。
「戻って、もう一回出たくなった」
「そこがあるほう、好きです。続きも聞けてよかったです」
俺が選んだ低い音から、その先を本人が作った歌になっていて、藤崎さんは、月末の土曜日に出すつもりだと教えてくれた。
何人かが二曲ずつ歌う日で、そのうち一曲を今の自作にするというので、俺は空いている予定を開いた。
「聞きに行ってもいいですか」
「うん。まだ題名で迷ってるけど」
「それは、当日までに聞ければ」
「題名なしで呼ばれるのは、私が困る」
笑った藤崎さんと一緒に俺も笑い、その土曜を予定へ入れた。今度は自分の順番を気にせず、客として一曲を聞ける。
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俺の録った二曲の伴奏は店の機械にはまだないので、次には、前から好きだった歌を選んでマイクを持った。
高いところから小さい声へ降りる部分でも、今は息を押し出さずに言葉を残せたので、マイクを遠ざけずに最後まで歌った。
歌い終えると藤崎さんが俺を見たまま、少し間を置いてから、さっき小さくした声のことを言った。
「最後、あんなに小さくなるんだ」
「今日は、これくらいにしたかったです」
「前より、近くで聞いてる感じがする」
高い声を遠くまで出すのも好きだが、小さくした声も聞いてもらえたのが嬉しくて、俺はマイクを置いてうなずいた。
次に藤崎さんが自分の曲を一部分だけ歌い直し、最後へ行く前に息が足りなくなるというので、歌詞を見せてもらった。
本人の声の高さで少し前から歌い、全部を同じ強さで押す代わりに、先に軽く言えるところを短くしてみた。
「ここで吸うと、最後まで言いやすいと思います」
今見た言葉の場所を示すと、藤崎さんは一度試し、最後の言葉をさっきより長く残して、マイクを持ち直した。
「あ、これならできる」
もう一回歌うときには俺は黙って聞いた。息を入れる場所は変わっても藤崎さんの歌い方のままで、終わると本人も笑っていた。
*
部屋を出る前に二曲の表紙を見せると、藤崎さんは、端に写った鍵盤を指して俺のほうへ顔を向けた。
「この鍵盤、凪くんの?」
「はい。家で弾いてるやつです」
「音が始まる場所なんだね」
日曜日に聞いた短い試聴も好きだったと聞いて、俺は完成したほうを流そうと携帯を出しかけたが、先に藤崎さんが続けた。
「日曜に買って聞くよ。せっかく出すんだから」
「ありがとうございます」
普通に答えたあとで、先輩が四百円を払って二曲とも聞くところを想像すると、携帯をしまう手が少し遅くなった。
(先輩の四百円まで、気になるのか)
気になった。
今すぐ聞かせるのはやめ、日曜日に聞いてもらうことにして、藤崎さんが戻し忘れかけたマイクを充電のところへ置いた。




