第161話 四百円のところへ、名前を置く
日曜日の午後、石倉さんから販売ページの確認画面が届き、俺は鍵盤とノートの写真の下に並んだ二曲を見た。
『休みの日』と『ひと駅ぶん』。歌、作詞、作曲には久瀬凪とあり、その下には小野さんと石倉さんの担当も書かれていた。
写真を撮ったノートには消した言葉もあったが、画面では字まで読めないので、迷った跡も白いページの一部になっていた。
(値段の横には、迷った回数を置けないんだな)
置けても買う人が困るだけだと思って、俺は二曲セット四百円の表示から、短い試聴のほうへ指を移した。
『休みの日』は鍵盤から最初の言葉へ入るところで、もう一曲は四つの音が戻り、声が重なるところだった。
前もって石倉さんに相談され、俺が選んだ二か所を続けて再生すると、小さい携帯の音でも言葉は聞こえた。
最後までは流れないから、その先も聞きたくなってもらえたら嬉しいと思い、題名と名前も確かめて返事を送った。
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夕方、次の日曜の午後六時から販売する案内が公開されたので、俺もその下へ、自分の短い文章を書いた。
『灯り舎で歌った休みの日と、新しく作ったひと駅ぶんを録音しました。二曲とも、俺が歌っています』
開始日時とページへの案内を付けて読み直すと、歌っているのは聞けばわかると思ったが、その一文は残して出した。
役の名前で出た広告とは違い、自分が書いた二曲を自分の名前で歌うことを、案内でも伝えておきたかった。
公開した文章を見てから植田さんにも知らせると、しばらくして、公演の案内にも載せるという返事が来た。
『あの短い歌ですね、というお問い合わせがありました』
もう覚えている人がいるとわかって、俺は試聴を開き直し、七十二秒のままの歌へ、今度は場所を答えられると思った。
あのときの質問のために長く作り直さず、この長さの歌を聞けるようにできたので、案内の日付をもう一度見た。
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藤崎さんにもページを知らせると、二曲目の歩く速さがいいと返事が来て、そのあとに短い音声が一つ届いた。
新しく作っている藤崎さんの歌の途中で、最後が二通り入っていたので、俺はスマホを机へ置き直して聞いた。
『どっちが、続きを聞きたくなる?』
最初は高い音へ上がり、次は低いところへ一度戻る。俺は戻ったほうをもう一回聞いて、その先にも歌ってほしいと思った。
そう返すと、そちらも捨てられなかったと答えが来たので、自分の案内を知らせたところから、今は別の歌を聞いていた。
(こっちの続きも、聞きたいな)
低い音へ戻った声のあとを待ちながら最後まで再生し、二通りとも消さずに残して、俺は藤崎さんへ礼を返した。
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夜には販売ページを閉じ、買ったゲームを始めた。四百円で聞いてもらう音はできたし、今日の確認も終わっている。
そう思って次へ進んだのに、一つの面を終えると携帯へ手が伸びたので、案内を開いて、発売の日をまた見てしまった。
まだ販売は始まっていない。
注文が増えるはずもないと気づいて閉じたが、来週になったら何回見るのかと思うと、今の手の動きだけでも想像がついた。
値段の付いた自分の曲を見るのは少し緊張したが、取り下げたくはなかったので、携帯を伏せてゲームの次の面へ進んだ。




