第159話 自分の声で、ひと駅ぶん
月曜日の二時、小野さんが『ひと駅ぶん』の四つの音を弾くと、その下に足した低い音まで一緒に聞こえた。
家で俺が弾いたときより足元がはっきりしていて、石倉さんのギターが入ったところで、俺も声を前へ出した。
『休みの日』よりよく動く言葉を、一つだけ強く飛び出させず、次の音へ渡していくと、軽い声のまま形を残せた。
電車の窓を見ているところでギターが減り、近くへ置いた声から、降りる駅が近づく二番へ進むと、伴奏もまた明るくなる。
最後の言葉だけ少し待ち、四つの音へ戻って終えると、石倉さんは、そのあたりを選んで再生してくれた。
「ここ、言葉を一つ待ったんだね」
「はい」
「伴奏も、そこへ少し待たせようか」
声を無理に早めずに済むのが嬉しくてうなずくと、小野さんが短く弾き直したので、俺も最後の言葉から歌った。
鍵盤が息を取り終えるところを待ってくれると、歌も急がずに終えられて、録った声を聞きながら少し笑ってしまった。
(降りる駅が来ても、こんなに落ち着いてたら楽だな)
実際には鞄を取りながらイヤホンの線を気にすることが多いが、そこまで歌わず、今の間を残すことにした。
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二回目には最初の声を少し弱め、まだ座って聞いている感じを長くすると、音程も言葉の長さも同じなのに、始まりの聞こえ方が変わった。
石倉さんが二つ続けて流してくれたので、俺は前奏から聞き、一つ目のほうがすぐ足を出したくなると伝えた。
歌い出しは最初、最後は伴奏が待ってくれた声を残すことになり、全部を一回の明るさへ揃えなくてもよくなった。
そのあと、自分で作った旋律の少し上へ、一つだけ重ねたい音を話し、最後の繰り返しに入れる高い声を別に録った。
強く出すとそこだけ前へ来るので軽く歌ったが、細く切れずに音を残せて、主な声と合わせると最後が少し広がった。
「ここは、これでお願いします」
石倉さんが譜面へ印を付ける間に、俺はもう一度合わせた声を聞き、家の短い始まりにはなかった音まで欲しくなっていた。
前の仕事では見本を聞いて揃えたところを、今日は自分から選べたので、別に録った高い声だけも聞かせてもらった。
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休憩で水を飲んでいると、小野さんが歌詞を見て顔を上げ、電車のところを俺に尋ねた。
「実際に、もう一駅乗ったことはあるの?」
「降りてから、遠回りしたことなら、あります」
乗り過ごした話ではないと首を振ると、小野さんは少し笑って、今度は最後のほうの言葉へ目を戻した。
「そのまま帰りたくなかった?」
「……曲が、まだ終わらなかったので」
「じゃあ、合ってる」
大きなことがあったわけではないが、続きを聞きたくて道を長くしたことは俺にもあったので、そう言ってもらうと返事がしやすかった。
言葉だけ格好よく変えずに残した歌詞を見直し、俺は水を置いて、もう一度マイクの前へ戻った。
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四時前には今日の録音を終え、木曜日に完成に近い音を聞き、必要なら短く録り足す約束を確かめて紙をしまった。
今月は月曜と金曜の二日の勤務になったが、今日の月曜はなくなっていないので、俺は駅へ向かって時刻を見た。
途中で石倉さんから届いた短い確認用の音をかけると、録ったばかりの四つの音と俺の声が、電車の中で始まった。
降りる駅の名前が聞こえたところでちゃんと立ち、鞄を持ったら、歌の中では省いたイヤホンの線が少し引っ掛かった。
(歌った本人が、そこで間違うなよ)
線を直してイヤホンを外し、続きを聞くのは帰りにして、俺は十八時の勤務へ向かった。




