第158話 最初から、聞いてほしい声
金曜日、三枝さんから『くるり』の三本の広告は今日までの使用で、次の案内へ切り替えるという連絡が来た。
もう確認してほしいものはないと書かれていたので、俺は礼を返し、朝、夜、休日と並べた日程に、終えた印を付けた。
三回分の代金はもう受け取っていて、短い音声を録り足す枠も使わずに終わる。予定の欄を閉じ、今度は次の録音の日を開いた。
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五日後の水曜日、正午に工場を開くと、昨夜の十一時より少し前に次の桁へ届いていて、実績を受け取れるようになっていた。
【スキルポイントを24獲得しました】
【所持スキルポイント:44】
再編成前から続く生涯累計で届いた新しい実績だったので、報酬を受け取ったあと、俺は歌唱の欄へ移った。
【歌唱 Lv.8 → Lv.9】
【必要スキルポイント:34】
買える。
次の倍率にはまだ届かないが、明日は歌を録るので、鍵盤で最初の一行を小さく歌い、最後へ上がる音を確かめた。
大きく出すより、この小ささで言葉を残したかった。俺はその声を聞いてから、三十四ポイントを使った。
【歌唱 Lv.9】
【所持スキルポイント:10】
さっきと同じくらいの小さな声で高い音へ移ると、弱く出したままでも、言葉の形を崩さずに最後まで伸ばせた。
次の行をほんの少し明るくして歌い直すと、声に残る響きも選べたので、今度は鍵盤を一緒に弾いてみた。
指を動かしながら細くする声まで選び、録った音を聞き返したところで、俺はスマホを持ったまま笑ってしまった。
(いい。これ、明日聞いてもらいたい)
もう一度最初から歌い、録音の終わりを聞いてから、明日持っていく『休みの日』の譜面を鞄へ入れた。
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木曜日の一時、制作室で先に短い鍵盤を録ると、自分の歌に合わせて決めた間が、弾いた音にも残っていた。
小野さんが添える音を別に録ってくれて、二人の鍵盤が重なったところで、石倉さんが最初を一度鳴らした。
「声は、家で歌ったときに近い感じでいこう」
「はい」
前に仕事の曲を録ったのと同じ部屋のマイクへ立ったが、今日は誰かにもらった歌詞ではなく、自分で書いた紙がある。
一番を歌って短い間を待ち、二番では、仕事が終わったあとの好きな時間へ行くように、声を少し明るくした。
最後を強く歌い上げず、家へ帰って座ったくらいの声で終えると、伴奏が止まり、石倉さんはすぐには何も言わなかった。
そのまま少し待つと、録ったものが最初から流れたので、俺はイヤホンで、言葉の最後に添えた細い音を聞いた。
「今の、好きです」
先に言ってから石倉さんのほうを見ると、うなずいて、最後の声をもう一度聞かせてくれた。
「僕も。最後へ大きく行かないのが、よく聞こえる」
俺は紙のその行を指で押さえ、自分が書いたときに欲しかった声と、今流れている声を聞き比べた。
(今日はここまで、って言いながら、かなり満足してる声だな)
実際にそういうつもりで書いたところなので、ここはこの声を残しておきたいと、録音の最後まで聞いた。
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もう一度だけ別の明るさで歌ってみると、同じ音程でも、言葉を前へ出して軽く終えたほうは、出かける前の声に近かった。
どちらも歌えていたが、この歌で聞きたいのは家へ戻った最初のほうだったので、俺はそちらを使いたいと伝えた。
石倉さんが選んだ録音へ印を付けるのを見て、上手に歌えたものを全部残す代わりに、残したい一つを決められた。
四時までに今日の録音を終え、次の月曜日に二曲目を録る予定を確かめてから、俺は使った紙を鞄へしまった。
机には今の声や鍵盤が残り、石倉さんがこれから合わせてくれるので、今日は完成した一曲を持ち帰る日ではなかった。
(でも、できたら、すぐ送ってほしい)
出口で振り返り、そこだけは待ちきれず、聞ける音ができたらお願いしたいと、俺は石倉さんへ伝えた。
「もちろん。先に聞いてもらう」
石倉さんが笑って答えてくれたので、俺は礼を言って外へ出た。冷たい風の中でも、駅へ向かう足は少し軽かった。




