第155話 古い値段で、もう一度
金曜日の昼、工場の購入履歴を開くと、昨日の午後に中枢が一基、そのすぐあとに二基目のプラントが増えていた。
そこで三件の予約を使い切り、今朝までに作ったキューブが残っていたので、中枢の二基目、プラントの三基目、塔の一基目を入れた。
確認した途端に通知が続き、最後の塔で増え方が大きく変わると、俺は机に置いたスマホを持ち上げて見直した。
(これだ。ここからが、ずっと楽しかった)
前に買った複製回数の改良も、塔がなければ働かない。今置いた一基へ中枢の出力が通り、次の設備までの時間が短くなっている。
プラントをもう一基増やして、三基目の中枢を待つと、五分ほどでそちらも揃い、二基目の塔の見込みが出た。
もう少し待てば届くという表示が、見ているうちに届きそうな気にさせたので、俺は画面を閉じて歌のノートを開いた。
文字を一行追ったところで、さっきの残り時間がまた浮かんでくる。
(歌詞を読め。塔は、目で温めても早くならない)
鍵盤で『ひと駅ぶん』の前奏を弾き、最後へ帰るところまで声を出してから、今度は録音のほうを聞き返した。
*
昼のうちに二基目の塔ができていたので、夕方には、プラントを五基、中枢を四基、プラントを六基と続けて買えた。
残るキューブを三基目の塔へ貯める予約だけ入れると、今夜には届く見込みだったが、その前に勤務へ行く時間が来た。
工場を閉じて少し早めに店へ着くと、店長はフロントで伝票を揃えていたので、俺は鞄を下ろす前に挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう。あの曲、できた音があったら、あとで聞かせて」
公演のあとに話した『休みの日』のことを、店長のほうから覚えていてくれたので、俺は鞄からスマホを出した。
「家で録ったものなら、あります」
「じゃあ、五番で一回聞こうかな。まだ空いてるから」
勤務までの短い間、空いた客室で音を聞いてもらうことになり、俺は前に最初の歌を歌った五番の扉を開けた。
今日はマイクを持たず、ソファへ座った店長にスマホの音を向けると、家の鍵盤と俺の声が、いつもの部屋で鳴った。
*
一分十二秒を聞き終えた店長が少し笑ったので、俺も音を止めたまま、どのあたりで笑ったのか知りたくなった。
「帰ってから、何か好きなことをやる歌なんだね」
「はい」
「久瀬くんの曲だなあ」
そう言われると、スマホを持つ手が少し下がった。いつも勤務の終わりを待っているのが、そこまで見えていたのだろうか。
(そんなに、いつも帰りたそうでしたか)
でも、仕事のあとに家でゲームを開くのは楽しみだし、今は鍵盤まであるので、そこは否定せずにうなずいた。
「ちゃんと録って、聞けるようにしたいと思ってます」
「そうなんだ。できたら、教えて」
店長は普段の予定を聞くように答えたので、俺も礼を言ってスマホをしまい、フロントへ戻ることにした。
自分から今の録音を聞かせに行くまでを考えていたのに、完成したらまた知らせる約束までできて、少し口元が緩んだ。
もう一回歌うために部屋を使い続けず、勤務を始める用意をすると、聞いてもらった一曲が頭の中でもう一度鳴った。
*
翌日の土曜日、三基目の塔は昨夜の十一時半より少し前にできていて、前と同じ三段の接続がまた動いていた。
プラントを一つ足して七基にしたところで、再編成前の生産速度を越えたので、俺は両方の数字を並べて見た。
元の数まで戻ったわけではないのに、八倍が付いた工場は、前の十二基と九基を越えてキューブを作っていた。
(戻った。しかも、ここから先がある)
高い一基だけに全部を使わず、中枢とプラントの安いほうを順番に並べ、買い終わるたびに次の予約を入れ直した。
三件を越えないように途中の購入を確かめながら進めると、夕方には八基目の中枢まで揃い、次のプラントを待つところへ来た。
その先に九基目の中枢を置く順番まで決めて、俺はゲームを閉じた。残りを全部、今日買ってしまう必要はなかった。
鍵盤へ向かい、昨日店長に聞いてもらった歌を弾いてから、今度は二曲目の短い前奏へ手を移した。
こちらにも二人の音が加わったら、聞かせられる歌が増えるので、俺は録る日を思い出しながら続きを歌った。




