第154話 ゼロからでも、八倍
水曜日の正午、買い直す順番を書いた紙をスマホの横へ置き、俺は再編成の確認画面で、実行するほうを選んだ。
現実の技能も二十ポイントも残り、三十二倍の基礎倍率と旧い改良、生涯累計は引き継ぐことを、押す前に確かめてある。
同じ実績をもう一度受け取れるわけではないが、これまで歌や鍵盤に使った分まで返してもらうつもりはなかった。
プラント、中枢、塔の行が空になり、所持キューブがゼロを示した直後、下の設備で作られた数字がまた増え始めた。
【再編成補正:×8】
【生産速度:約26億/秒】
動いてはいるが、さっきまでの工場を見ていた目には、増える桁がずいぶん小さく、俺はしばらく所持数を眺めていた。
(押した。やったな、俺)
残るものを読んだときより、空いた設備の欄を見るほうが、全部を一度なくしたとわかるので、紙の最初の行へ指を置いた。
プラント、中枢、もう一つプラントの順で購入予約を入れると、空の工場にも、次に増やしたいものが三つ並んだ。
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最初のプラントまで一時間ほどだったので、昼ごはんを作って食べ、皿を洗ってから見ようと、俺は台所へ立った。
鍋へ火を入れたところで、ついスマホを持ち直すと、予約は一件も終わっておらず、さっきと同じ設備の欄が見えた。
(今、二分くらいだろ)
今度は画面を伏せ、火の通り具合を見て次を入れると、料理の順番や、待つ間にできることは普段どおりにわかった。
味を確かめて食べる分をよそい、洗い物を終えてから開いた工場には、待っていた最初の通知が残っていた。
【プラントを購入しました】
一基増えた表示の下で、キューブの増え方が大きく変わっていた。もう買うのか、と言いたくなってから、初めの価格だったことを思い出す。
前には、その値段へ届くまで待った。今度は残った設備と倍率を持って同じ一基目へ戻り、昼ごはんの間に買えている。
次の中枢までは一日ほどかかると出たので、俺は明日の午後の表示を見て、予約の順番をそのままにしておいた。
中枢ができれば、前に買った連結の改良も使える。すぐ全部を揃えられなくても、どこで速くなるかは先に見えていた。
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ゲームを閉じて鍵盤の前へ座り、『ひと駅ぶん』の始まりを弾くと、四つの音から続く歌が、指にも声にも残っていた。
高い音へ移っても途中で止まらず、間を待って最後へ戻せたので、俺は次に『休みの日』を弾いて、二曲とも録った。
再編成する前と後で変わったのは工場のほうだと、技能の欄を読むだけでなく、家の鍵盤でも確かめられた。
短い曲が終わり、長いほうの前奏が続く録音を聞いていたら、中枢を待つ一日にも、やりたいことは十分あった。
(こっちまで最初からだったら、困ったな)
録音を止めずにもう一度声を聞き、最後に急がなくなったところまで確かめてから、俺はノートを閉じた。
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夕方、店へ行く鞄を用意して、工場を一度だけ開くと、最初の予約は終わり、二件目の中枢で待っていた。
明日の午後には買える見込みのままだったので、三件目のプラントをほかの設備へ入れ替えず、スマホをしまった。
今月の水曜日にはまだ勤務がある。来月の休みと取り違えずに鍵を取り、靴を履いたところで、少し笑ってしまった。
(また、買う順番を考えて寝る日が戻ってきたな)
その前に今日の仕事へ行き、帰ったら、工場と二曲のどちらを先に開くか決めることにした。




