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第153話 もう一駅、聞いていたい

 月曜日の昼、四つの音から始めた歌を弾いていると、前の『休みの日』より、少し軽い足取りで先へ行きたくなった。


 そのまま最初の旋律へ戻せばすぐに終わるが、別の音へ進むと、戻ってきたいところがうまく見つからない。


 録音を止めて聞き返すうちに、好きで残したい始まりから、だんだん遠くなるばかりなのがおかしくなった。


 (楽しく寄り道して、帰り道がなくなってる)


 もう一度四つの音を弾き、このまま終える代わりに続きを欲しくなって、俺はスマホで作曲の欄を開いた。


【作曲 Lv.3 → Lv.4】

【必要スキルポイント:3】


 二十三のうちの三を使っても、残りは二十ある。歌唱を上げるところにはまだ届かないので、今、作りたいほうへ使うことにした。


【作曲 Lv.4】

【所持スキルポイント:20】


 鍵盤へ戻ると、最初の一つの音を残しながら、その上を変えて、別の旋律へ進めるやり方が手元に浮かんだ。


 先へ行ったところで少し待ち、前の四つの音へ戻すと、さっきまで弾いていた始まりが、帰ってくる場所として聞こえる。


 (おお。ちゃんと、帰ってきた)


 そこをもう一度弾いて録り、帰る直前の間を聞き返してから、ノートの空いた行へ電車の中のことを書いた。


     *


 帰る途中、好きな曲がまだ終わらないのに、降りる駅の名前が聞こえてくると、もう一駅だけ座っていたくなる。


 降りたあとでも続きを聞けるし、俺も何度も駅の階段で聞いているが、窓の外を見ているうちに終わってほしいときがあった。


 歌の中でも乗り過ごすことにはせず、ちゃんと立ってドアへ向かい、降りたあとも耳元に残る音について書いた。


 少し遠回りして帰ると決めたところで、最初の旋律へ戻してみると、電車を降りても、歌の足取りは続いていた。


 詞の技能で言葉を入れられる場所はいくつも見つかったので、その中から、俺が実際に思いそうなものを選んだ。


 電車の中で世界を変える決心をしたことはない。よくやるのは、今流れている曲をもう一回、始めから聞くことだ。


 (それで、駅の名前を聞きそびれるなよ)


 そこまで書くと、何をしたか順番に説明する歌になったので、乗り過ごしそうになるくだりを消し、続きを聞きたい気持ちを残した。


 声に出すと少し明るく歌えたので、一番のあとに短い間を弾き、二番では階段を下りてからの景色へ進んだ。


 駅を出て、いつもより少し長い道を選ぶところまで歌ってみると、最後にもう一度、四つの音へ帰ってこられた。


     *


 二分三十六秒だった。


 前の一分十二秒と並べると倍以上あるが、同じところを足して長くしたのではなく、歌いたい続きを弾いていたらそこまで行った。


 ノートの上に『ひと駅ぶん』と書いて録音の名前も変えると、空欄だった二曲目に、ようやく題名が入った。


 声と鍵盤だけの音を石倉さんへ送り、小野さんにも渡してよいと添えてから、俺は二曲のファイルを続けて聞いた。


 家の声で聞けるものは、これで揃った。その先を二人に弾いてもらえると思うと、まだ聞いたことのない音も欲しくなる。


 夕方、店へ行く前に石倉さんから返事が来たので、鞄を取りに立ちかけたところで、またスマホを持ち直した。


『帰り道に聞きたい歌になったね。最後を急がないところ、残しましょう』


 急がずに終えたかったところは、音で伝わったらしい。礼を返して次の打ち合わせの日を決め、二人の伴奏を待つことにした。


 録音をもう一回かけそうになって時刻を見ると、今日は月曜日で、先に勤務へ行く用意を済ませなければならなかった。


 鍵盤を閉じて鞄を取り、帰ってからどちらを先に聞こうかと考えながら、俺は部屋を出た。


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