第152話 まだ押していないボタン
土曜日、鍵盤の前で録った音を聞き返す合間に工場を開くと、下のほうにある項目の印が明るくなっていた。
【再編成】
名前は前から見えていたが、中枢を九基にしたあとで使えるようになったらしい。次の設備の値段だけを見るつもりで、今日はその下へ指を伸ばした。
【累計生産10^27以上・中枢9基で実行可能】
【所持キューブと上位生産設備を初期化します】
【再編成補正:×1 → ×8】
八倍を見たあとで二行目へ目を戻し、上位生産設備の内訳を開くと、プラント、中枢、塔と並んでいた。
十二基と九基、三段につないだ塔が全部なくなり、買うために貯めているキューブまでゼロになるということだった。
(説明が短いと、思い切ったことをするな)
試しに一度、と押せるものではなかったので、実行するボタンから指を離して、残るものの説明を先に読んだ。
*
初期の設備、炉、組立、合成は残り、これまで買った個別の改良と購入予約、ポイントで上げた基礎倍率もそのままだった。
現実の技能と所持スキルポイント、生涯累計、受け取り済みの実績まで確かめてから、俺は技能の一覧を開いた。
歌唱八と演技八、作詞と鍵盤は四、作曲は三。英語や料理の欄にも目を通したが、ここを初期化するとは書いていない。
さっきまで自分の曲のことを考えていたので、録音に使う声や指まで戻るのかと、先に気になってしまった。
(そこまで取られたら、さっき払ったお金が困る)
二十三ポイントも持ったままで、同じ実績の報酬をもう一度受け取るわけではない。その部分を読んで、やっと工場のほうへ戻った。
下の設備だけで動き直した工場にも八倍が付き、今の三十二倍とは別に、両方の倍率がかかると書かれていた。
何も持たずに始めた最初の日と違い、残る設備の欄を見ると、最初のプラントまで一時間ほどという表示にも納得できた。
*
一基目は一基目の価格へ戻り、追加するたびに高くなる規則は同じだった。俺は買い直す順番を選び、時間の見込みを出した。
最初のプラントのあと、中枢を一つ置くまでは長いが、そこへ届けば、残しておいた中枢の改良が新しい一基にも効く。
塔も三基揃え直せば前の三段接続を使えるので、買った改良をまた一つずつ集める必要はなかった。
八倍になる、という表示だけで見るよりも、どこまで戻れば元より速くなるかが見えてくるほうが面白かった。
今のキューブをそのまま貯め、次の中枢を買う案も開いて比べた。こちらはまだかなり待つし、買ったあとの増え方も価格ほど大きくはない。
十二基目のプラントでも費用を取り戻すまでの表示が長かったので、今の設備を残す案にも、長い待ち時間は付いていた。
再編成なら最初は今よりずっと遅くなるが、安いところから買い直し、同じ数まで揃えたときには全部へ八倍がかかる。
(欲しい。これは、かなり欲しい)
思ったあとで現在の工場を開き直すと、プラントと中枢が並んでいた。買えるようになるまで待った日を、いくつか覚えている。
これを全部なくすと書かれたときには指が止まったのに、今度は、最初の一基が安く買えることを考えていた。
全部残ったまま八倍になるボタンなら、すぐ押していただろう。ここでは、なくす分と戻ってくる速さを見て、俺が決める。
*
その場では押さず、机にあった紙へ、プラント、中枢、プラントと書いた。購入順の予約は三件までなので、最初はここまでだ。
中枢を待つ間に安い設備へ寄り道すると、その分だけ到着が遅れる。先に欲しい一基を決めておけば、途中で値段に釣られずに済む。
紙の三つを指でたどってから、もう一度、最初の所要時間を見た。以前なら長かった一時間を、今は録音を聞きながら待てる。
押したあとの順番まで考えたところで、ゲームを閉じた。ボタンはまだそこにあり、工場も今の数のまま動いている。
午後には新しい歌の四つの音を弾き、途中まで作った先を試した。机の紙には買い直す順番があり、ノートには二曲目の空欄がある。
どちらから先へ進めようかと思って、今は鍵盤へ手を戻した。




