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第143話 夜の俺も、流れ始めた

 土曜日の昼、工場の実績を開くと、前の大きな節目から桁が一つ増えていた。届いたのは昨日の夕方だったが、勤務前に眺め始めると出るのが遅くなりそうで、受け取りを今日にしていた。


【スキルポイントを23獲得しました】

【所持スキルポイント:23】


 ゼロだった欄にまとまった数が入り、何へ使うかを見るために一覧へ移ったが、歌唱を上げる三十四にはまだ届かない。


 倍率の百二十八は、もっと先だった。それでも、詞を選ぶことも、自分で鍵盤を弾きながら歌うことも、もうできるようになっている。


 先に使った十二ポイントを、待ち直したことにはしなくていい。今の二十三を何に使うか考えられるのは、かなりいい状態だった。


 九基目の中枢は購入待ちだったので、買えるまでの見込みだけ確かめて閉じた。明日は、自分が見られるもののほうも一つ増える。


     *


 日曜日の朝、『くるり』の公式ページに夜篇が並んだので、朝篇の隣から、新しいほうを再生した。


 佐野が冷蔵庫を開け、そのあいだに友人が椅子へ座る。机の端の容器へ向けた吉岡さんの視線は、撮影中にも何度か見たものだった。


 今は二人とも同じ画面の中にいて、食べるものが揃ったところへ、俺がゆっくり歌った声が入った。


 朝篇と同じ短い曲なのに、家に帰ってきた佐野として聞けた。自分で選んだ声の間に映像が収まっているので、そこをもう一度見たくなる。


 最後まで見てから三枝さんへ連絡し、藤崎さんにも公開ページを送った。今度は朝の佐野みたいに、店へ出る支度をする必要はない。


 今日は、家でやりたいことがある。


 昼に夕飯の分もまとめて作り、野菜を切って、火の通る順に鍋へ入れた。料理の技能を買ってから、こういう簡単な食事はずいぶん楽に作れる。


 昼の分をよそい、残りは家に前からある容器へ入れた。広告で使った商品ではなかったが、蓋を閉じれば、あとで鍋から移す用事は済む。


 冷まして冷蔵庫へ入れるところで、映像の佐野を思い出した。食べるものは揃ったが、こっちの台所には、使った鍋がまだ残っている。


 (芝居でやったからって、急に生活が完璧にはならないな)


 洗うところまで先に済ませた。あとで鍵盤の前から立ちたくなくなったときに、鍋のことを思い出さずに済むほうがいい。


 午後、植田さんから歌の会の案内が届いた。先週の土曜日に公開したページへ曲目を追記した、と書いてある。


 俺の名前の下に『手のひらのつづき』『椅子をふたつ』が並び、そのあとに『休みの日』も入っていた。


 七曲全部の順番は、当日のお楽しみにするらしい。自作の題名を確かめてから、入場料と席数のところまで読んだ。


 一人二千五百円、六十席。予約は今、三十七人で、俺が知っている人へ連絡した数だけでは、そこまで行かない。


 植田さんによると、会場の普段のお客さんも何人か来る予定だった。映画を見て声が気になった、と書いてくれた人もいるという。


 宮下は、映画で歌わなかった。その声を聞いた人が、今度は俺の歌を聞きに来るとわかると、案内の自分の名前まで読み返したくなった。


 (ちゃんと俺の歌って書いてある。よし)


 そこを一回見てから、森野さんたちへ公開用の案内を送った。曲目の誤字を見たつもりで、自作の題名もまた読んでいる。


 そのあと、藤崎さんから夜篇の返事が来た。


『あの友達、冷蔵庫を開けないところは偉いね』


 椅子で待つ吉岡さんを思い出し、撮影中に川瀬さんが話していた、佐野の家での友人の設定を返した。


『前に来たときは、勝手に開けた設定でした』


『だから、佐野が先に振り返るんだ』


 そこも見てくれたのかと、スマホに向かってうなずいてから、これでは伝わらないので、そうですと書いた。


 歌は、帰ってから聞く声として、朝篇よりこちらが好きだという。どちらも自分で選んだ声だったので、好きなほうを選んでもらえたのが嬉しかった。


     *


 月曜日、広告の二回目の八万八千円が入り、三枝さんへ受け取った返事をしたあと、口座の表示をもう一度見た。


 これで二回分。


 三本目は四週間後に公開され、翌日に最後の分を受け取る。その前には公演料も入る予定なので、今日の欄とは分けて日付を確かめた。


 先の予定を全部足して買い物を決めるつもりはなかった。それでも、報酬の日だけを待って、仕事のない時間まで埋めようとしなくてよくなっている。


 公演の予定の横には、何も入れていない火曜日がある。好きなゲームを遊ぶ日にして残したのを確かめてから、今日の勤務へ行く前に『午後の急行』を歌った。


 明るく先へ進む曲は好きだったが、俺の火曜日は、できれば家からあまり出ずに済むほうがよかった。


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