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第138話 七ポイントで、言葉を買う

 水曜日の正午、昼ごはんを食べる前に、工場の購入欄を開いた。日曜日から三段の塔が動き続け、次のプラントを買ってもまだキューブが残る。


 中枢を一基増やしたあと、プラントも追加できそうだったので、買う順番を確かめてから皿へ目をやった。


 まだ、台所に置いたままだ。


 (冷たいものを用意しておいて正解だったな)


 一つだけ比べるつもりで開いて、一つでは済まなくなる。最近の俺を当てにするなら、温めた料理を前に置かないほうがいい。


 まず十基目のプラントを買い、増え方が変わったのを見てから、八基目の中枢、十一基目と十二基目のプラントを購入予約へ入れた。


 確認を閉じると、八基目の通知が来た。そのあとも間を置かずに二つ届き、予約欄へ戻ったときには、もう何も残っていない。


 (設定するほうが長かった)


 新しく貯まるのを待たず、すでに持っていた分で順に払ってくれたらしい。画面で増えた設備を見つけ、一基ずつ、つながる先を確かめた。


 中枢へ入るプラントが増え、三段の塔を通った先の数字も大きくなったので、次の実績までの見込みを開いた。


 あと、二十三日くらい。


 何も買わずに待つより、かなり早くなっている。一方で、十二基目の代金を、その一基の追加生産で取り戻すには七十日ほどかかる。


 今晩だけ見れば、買わずに持っていたほうが多い。それでも、これからも閉じている間に増え続けるなら、先に設備へ使っておきたかった。


 次は中枢を九基まで買う予約に変えたが、今度は通知が来なかったので、購入欄を閉じて台所へ向かった。


 (よし。今度こそ昼ごはんだ)


     *


 食べ終えて、鍵盤の前に座った。台を横へ置いたおかげで、机に残した紙を片づけず、そのまま弾き始められる。


 昨日、石倉さんに聞いてもらった四十二秒を弾き、途中で止まった指を戻して、最後の数音だけ確かめた。


 鼻歌なら、どのくらい伸ばすかをすぐ選べる。そこへ言葉を乗せようとすると、弾いていたときには決めなくてよかったことまで、決める必要があった。


 何の歌なんだろう、これ。


 ノートに『帰る』『休む』『明日は』と書いて、続きが出てくるのを待ったが、次の行は空いたままだった。


 (予定表か、これは)


 録音を聞き直すと、最初の柔らかい音から途中だけ少し弾み、最後には戻るところが、今も好きだった。


 何もしないつもりで作った音ではない。仕事が終わったあとや、予定のない午後に、家で好きなものを開いていいときの感じに近い。


 帰る前に買い物を済ませておいたことや、仕事のない日に鍵盤を出したことも書き足し、それを最初の音で歌ってみた。


 一行目から、言葉が余った。


 急いで詰めると、弾いていた音まで忙しくなったので、ノートを開いたままスキルの一覧を呼び出した。


 作曲の近くにある作詞は、名前だけなら前から見ていた。今日は説明を最後まで読み、音の長さに合わせた言葉選びの項目で止まる。


 歌ったとき、どう聞こえるかも含まれている。さっきからノートの上でできなくなっていることが、そのまま並んでいた。


【作詞 Lv.0 → Lv.4】

【必要スキルポイント:合計7】


 使えるポイントは十二あるが、倍率をまた二倍にするには百二十八、歌唱を九へ上げるには三十四が要る。


 どちらも、今は買えない。


 詞だけ自分で考え続けることもできるし、鼻歌のまま聞いてもらうこともできる。それでも、今度は自分の言葉で、この音を歌ってみたかった。


 七ポイントなら払えるのを確かめ、ノートの空いている行へ目を戻してから、購入を選んだ。


【作詞 Lv.4】

【所持スキルポイント:5】


 さっきの三つの言葉は、同じところに残っていた。それを録音へ合わせると、長い説明を最初の短い音へ全部入れなくていい、とすぐわかる。


 帰ったときに目へ入るものから始め、少し長く伸ばせるところへ、言いたかったことを置いて書いた。


 声にすると、途中で急がなくても一行が収まる。最後の母音を残したまま次へ移れたので、鍵盤を戻し、同じところをまた歌った。


 (おお。ちゃんと歌詞になった)


 できるとわかったあとは、次の言葉もいくつか出てきた。どれも音に入るのに、立派な決心をする行だけは、何度歌っても選びたくならない。


 何かを乗り越えて明日へ向かうつもりで、作った曲ではなかった。俺は今日、家へ帰って遊びたかっただけだ。


 そっちの言葉を消して、『今日は、ここまで』と歌うと、終わりの挨拶みたいな言葉が、途中の少し弾む音へよく合った。


 そのあとに帰ってからやりたかったことを続けたら、歌っているうちに笑ってしまい、最初からやり直す。


 (そりゃ明るくなる。まだ遊べるんだから)


 一番ができたところでスマホへ録ったが、鍵盤を一緒に弾くと、声は先へ行けるのに指のほうが止まりそうになった。


 それでも言葉の入った自分の旋律を聞けたので、録音を保存した。先に作った鼻歌も消さず、二つのファイルを並べておく。


     *


 夕方、勤務へ行く前に、石倉さんへ昨日の音を受け取った礼と、会場を見に行きたいことを返信した。


 送る前に、もう一行足す。


『自分の曲にも、少し歌詞を付けてみています』


 今の録音も付けようかと思ったが、まだ半分残っているので、最後まで決めてから聞いてもらうことにした。


 返事は、スマホを鞄へ入れる前に来た。


『楽しみにしています。土曜日の二時、会場でどうでしょう』


 予定を確かめて、行けると返した。入口に立つ自分を想像するより先に、この曲も歌えるかが気になっている。


 靴を履いて鍵を掛け、廊下を歩きながら、付けたばかりの一行を小さく歌った。


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