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135/181

第135話 今度は、四十二秒

 月曜日の朝、三本の広告が届いた。


 朝、夜、休日。


 机の鍵盤を端へ寄せ、イヤホンをつけて見る。


 佐野が靴下を探している。


 次の日の朝には、すぐに一足取れた。椅子へ座って休むところで歌が入り、最後に店名が出る。


 三十秒だった。


 俺は止めず、二本目へ進んだ。


     *


 夜の佐野は、やはり明日の料理を取られたくなさそうだった。


 吉岡さんの箸を見て、容器を少し引く。


 その手を追うように品物が映り、蓋を閉めた俺の顔へ戻った。


 声が重なる。


 先に見せてもらったものより、鍋や食器の音も入っている。


 あの部屋で、二人が夕飯を終えたあとに見えた。


 三本目は、休日の片づけだった。


 椅子を空けるところで、少し笑ってしまった。


 撮ったときには、相手の顔を見ていた。画面で見ると、上着の置き場に困っている自分の手もよくわかった。


 今度は、先に品物へ手を伸ばせる。


 そこが、佐野なりに少し変わったところだった。


     *


 短い版も確認し、名前の表記や声に問題がないと返した。


 三枝さんからは、お店側でも確認が済んだと連絡が来た。


 最初の公開は、今度の日曜日。


 残りの二本は、四週間ずつ空けて出る。


 俺は、まだ公開前のファイルを仕事のフォルダへ戻した。


 全部見てほしかったが、友人へ送るのは正規のページができてからだった。


 いったんイヤホンを外し、鍵盤を手前へ戻す。


 こちらにも、続きを聞かせたいものがあった。


     *


 昼、作曲の欄を開いた。


【作曲 Lv.1 → Lv.2:1ポイント】

【作曲 Lv.2 → Lv.3:2ポイント】


 今の旋律は、気に入っている。


 前に藤崎さんへ聞かせたところから、続きも少し増えた。


 ただ、増やしたところをどこで終えるか、まだ迷っていた。同じものをもう一回つなぐと長くなるが、二回目は少し飽きる。


 三点を使った。


【作曲 Lv.3】

【所持スキルポイント:54】


 最初の部分を弾いてみる。


 続きをそのまま足す前に、最後の音を少し短くしたくなった。


 間を空ける。


 次の旋律を、高いところから始めてみた。


 同じ気分のまま続いていたところで、少し先へ進んだ感じがした。


 俺は、最初から弾き直した。


     *


 続きで高くした分、最後は元の旋律へ戻したかった。


 全部繰り返すと長い。


 最初の四つの音だけを使い、終わりの音を長めに残す。


 左手も、そこで止める。


 俺は鍵盤から指を離した。


 さっきまで、途中でやめていたところが、今度は終わりとして聞こえた。


 もう一度、声も重ねた。


 歌詞はない。鼻歌と、簡単な鍵盤だけだ。


 それでも、最初から最後まで同じものをやり直せた。


 録音の時間は、四十二秒だった。


 短い曲ではある。


 でも、今の長さが気に入った。三分にするためだけに、同じところを足したくはなかった。


 俺は保存名に、四十二秒、と足した。


 (題名は、まだ保留で)


 変に格好をつけて、あとでファイルを開くたび照れるのも困る。


 もう一度再生した。


     *


 翌日の夜、ゲームが次の実績を知らせた。


 累計の桁が、また一つ上がっていた。


 二十二ポイントを受け取ると、所持は七十六になる。


 俺は、基礎倍率を開いた。


【基礎生産倍率 ×16 → ×32】

【必要スキルポイント:64】


 六十四点。


 一点を惜しんでいた頃を考えると、ずいぶん使う。


 でも、今の工場全体へ掛かる二倍だった。


 三段につなぎ直した塔も、増やした中枢も、まとめて二倍になる。


 俺は、今の生産速度と購入後の数字を見比べた。


 俺は購入した。


【所持スキルポイント:12】


 生産速度が倍になったのを確かめ、少し笑った。


 残高は減ったが、満足だった。


 しばらく増えるところを眺めてから、鍵盤の前へ戻った。


     *


 水曜日は、勤務より三十分早く店へ行った。


 昨日、藤崎さんへ聞いて、時間を空けてもらっていた。


 休憩室のテーブルへスマホを置く。


 仕事の広告ではなく、自分の録音を開いた。


「前の続きです」


「できたんだ」


「はい。短いですけど」


 再生を押す。


 小さなスピーカーから鍵盤の音が出た。


 藤崎さんが俺の手を見た。


「これも久瀬くんが弾いてるの?」


「はい」


 それ以上しゃべると、曲にかぶる。


 黙って待つことにした。


 十六秒だけだった頃より、待つ時間が長い。


 自分で増やしたのに、少しそわそわした。


     *


 曲が終わると、藤崎さんは最初の旋律を小さく口ずさんだ。


「あ、こう戻るんだね」


 俺はうなずいた。


「そこ、好きです」


「うん。最後にもう一回出てくるの、いいね」


 その言葉が嬉しくて、再生のボタンへ手を伸ばしかけた。


 頼まれていないので、止めた。


 (もう一回いかがですか、とか言うなよ)


「もう一回聞いていい?」


「はい」


 今度は、すぐ押した。


 藤崎さんは、最後のところだけもう一度一緒に歌った。


 誰も知らなかった音を、目の前の人が覚えている。


 俺は、自分も少し声を足した。


 録音が止まってからも、すぐにはスマホをしまわなかった。


「歌詞は、つけないの?」


「……つけたくなりました」


 さっきまで、終わったと思っていたところだった。


 藤崎さんが笑う。


「じゃあ、それもできたら聞かせて」


 俺は、うなずいてから六時の時計を確かめた。


 まだ五分あった。


 広告の公開日に、よかったら一緒に店へ見に行かないかと誘った。


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