第131話 その十二分は、待てる
土曜日の昼、俺は先にトイレへ行き、水も持ってきた。
机にはスマホの計算機を置く。
広告の撮影が終わってから二日。待っていた改良が、今日の未明に買えるようになっていた。
【三段接続】
【必要キューブ:64垓】
ようやく、買える。
寝る前にはまだ少し足りなかったので、今日は起きたときから気になっていた。
昼食を済ませ、椅子へ座り直す。
急いで買って画面を閉じるのは、もったいなかった。
こういうところは、見ていたい。
*
塔は三基とも、毎秒百六十回ずつ複製していた。
今までは、同じ量を三つの塔へ渡して、それぞれが増やしている。
これからは、一つ目が増やしたものを二つ目へ渡す。
二つ目が増やしたものを、三つ目へ。
元の分も残るので、一段ごとに百六十一倍になる。
三つ分の働きを足すだけだったものが、順に掛かる。
表示された購入後の見込みは、今の八千六百倍以上だった。
計算し直しても、変わらない。
俺は、購入を押した。
六十四垓が引かれる。
塔の図の線が変わり、三つを順に通るようになった。
生産量が跳ねた。
所持キューブの十の位も、一の位も、もう目では追えなかった。
(速っ)
思わず、口も少し開いた。
ここまで変わるところを見るのは、久しぶりだった。
*
次の中枢の価格を開いた。
四百垓を超えている。
ついこの前まで、何か月も待たないと買えなかったものだった。
残り時間を計算する。
十二分あまり。
俺は価格の欄へ戻った。
値段が下がったわけではない。同じ数を、今度はそれだけの時間で作れる。
(その十二分なら、いくらでも待つ)
購入順の予約を開いた。
中枢を六基にする。
次にプラントを九基。
最後に中枢を七基。
三件で上限だった。
四基目の塔も並べてみたが、こちらは三段の組には加わらない。以前と同じ働きが一本増えるだけなので、今は中枢を増やすほうがよかった。
余計なものを予約していないのを確かめ、決定した。
*
十二分は、案外長かった。
数字を見ていると、あと十一分になるまでが遅い。
俺は机の紙を片づけた。昨日の広告の資料をまとめ、鍵盤の上の埃を払う。
水を飲む。
戻ると、残りは五分になっていた。
(寝ればいい待ち時間じゃないんだよな、これは)
椅子に座り、結局最後はずっと見ていた。
通知が出た。
【増殖中枢:6基】
残高が減り、そのあと増える速度がまた上がる。
次のプラントまでの時間も、短くなった。
俺は肘を机へつき、顔を寄せた。
先に一基買って、その一基に次を買わせる。
これがやりたかった。
*
九分ほどで、プラントも増えた。
その少しあとに、別の通知が出た。
【実績達成:累計1,000垓キューブ生産】
【スキルポイントを19獲得しました】
受け取ると、所持は三十九になった。
演技の八が買える。
俺は一度スキルの欄を開き、必要数を確かめた。
二十一ポイント。
今度は、ちゃんと足りている。
ただ、次の中枢まで進むところも見たかった。
今日は外出の予定はない。仕事の音源をもう一度聞く時間も、自分の曲を触る時間もあった。
まず、工場の予約分を終わらせることにした。
*
三時を過ぎると、また一つ実績が増えた。
次の二十ポイントを受け取ったときには、キューブの単位が、普段使ったことのない漢字になっていた。
俺は数字の表示設定を開いた。
桁を分けて書く表示へ変えると、長い数字が短く収まった。末尾の「24」が、一の後ろにゼロを二十四個並べるくらいの大きさを示している。
しばらくは、これで見ることにした。
全部読み上げたいわけではない。
次の買い物まで、あとどれくらいかがわかればよかった。
四時半を回って、最後の予約が終わった。
【増殖中枢:7基】
【購入順予約が完了しました】
俺は履歴を開いた。
三つとも、今日の午後に並んでいる。
何日も貯めていたものが、一つつながると一気に進む。
しばらく、次の設備の値段まで見ていた。
*
夕飯の支度をしようとして、まだスキルポイントを使っていないことに気づいた。
五十九ポイント。
演技を上げても、かなり残る。
机の小さな鍵盤が目に入った。
歌うほうでは出せる音を、指でも、もう少し楽に出せたら。
試してみたいものが増えていた。
俺は、買える技能を少しだけ眺めた。
(先に飯だ。今日はもう、十分増えた)
閉じてからも生産は続く。
そのことを思い出し、今度は画面を開き直さず台所へ行った。




