第128話 終わった仕事と、増える工場
日曜日、五時の公演が終わると、森野さんが俺の隣で深く頭を下げた。
俺も客席へ向かって頭を下げる。小野さんは鍵盤から立ち、同じ列へ来た。
三人で、もう一度挨拶をした。
四週間ごとに三日間。昼と夕方の二回ずつ。
頼まれていた公演を、全部終えた。
さっきの『椅子をふたつ』では、レンが椅子を並べるより早く、ソウが自分の分へ手を伸ばした。
森野さんが、少しだけ俺を見る。
俺は、取られた椅子を取り返さずに、自分の席だけ直した。
どちらも、次があると思って動いている。
最初にこの話を読んだ頃より、あの二人のことが好きになっていた。
*
舞台から下がると、森野さんが水を飲んだ。
「六回、終わったな」
「はい」
「最初の二公演も入れると、けっこう歌ったね」
小野さんが、譜面を揃えながら言った。
曲は、全部覚えている。
それでも歌うたび、相手が動くところや、客が笑うところは少し違った。
今日の最後も、好きだった。
「また、やりたいです」
言うと、森野さんがこちらを見た。
「うん。俺も」
すぐに返ってきたので、少し安心した。
俺だけが終わりたくないわけではないらしい。
ただ、そのまま次の日程が決まるわけでもなかった。
安西さんが来て、まずは三日間のお礼を言ってくれた。次については、会場の予定も見ながら改めて話したいそうだ。
俺は、連絡をくださいと答えた。
次の仕事があっても、この二人と歌える日なら欲しかった。
*
片づけのあと、三人で駅の近くの店へ入った。
小野さんが先に定食を選び、森野さんはメニューを裏返した。
「久瀬くん、次、広告だっけ」
「はい。会社員です」
「会社員になるんだ」
「役で」
「そこはわかるよ」
森野さんに笑われた。
(それは、そうか)
歌も担当することだけ伝えると、小野さんが、見られるようになったら教えてほしいと言った。
まだ公開前の資料は出さず、三本続く話だと説明する。
森野さんは次に参加する別の稽古の話をした。小野さんも、来月は伴奏の予定が多いらしい。
俺は注文した唐揚げを食べながら、二人の話を聞いた。
いつでも集まれるわけではない。
それでも、また一緒にやりたいと言えたことは、帰ってからも嬉しかった。
*
翌日の昼、公演料の四万二千円を受け取った。
入金の確認を返し、残っていた舞台の予定へ完了の印を付ける。
それからゲームを開いた。
昨日、公演の合間にはもう買えるようになっていたものがある。
【中枢連結制御】
【必要キューブ:12垓】
買う前に、五基の中枢を見た。
並んで動いているところが、今度は少し変わる。
購入を押すと、それぞれの欄に列の数が増えた。
一、二、三、四、五。
生産速度の表示が変わる。
【生産速度:約6,234兆/秒】
さっきの、約三倍だった。
俺は頬杖をつき、しばらくその数字を見た。
(働くなあ)
俺のほうは昨日の公演で少し疲れているが、こちらには関係がない。
食べている間も、休んでいる間も増やしておいてくれる。
*
三段接続の六十四垓までは、まだ足りなかった。
新しい速度で、残りの時間を計算する。
十二日ほど。
朝の広告を撮り終える頃には、かなり近づいているはずだった。
先に設備を買ってしまうと、その分だけ届くのが遅れる。予約の欄が空なのを確かめて、今日はそのまま貯めることにした。
俺は三段接続の図を開き直した。
一つ増やしたところへ、次をつなぐ。
計算どおりなら、あとは買えるときを待てばいい。
(あと十二日か)
昨日までより早くなったばかりなのに、もう長く感じていた。
画面を閉じ、冷蔵庫から昼食の残りを出す。
温める間に、つい、もう一度ゲームを開いた。
三倍で増えている。
そこだけ確認して、また閉じた。
今度は電子レンジが鳴るまで待った。




