第127話 二十六万四千円の予定
金曜日の昼、広告の条件が届いた。
昨日聞いた金額を、最初に確かめる。
二十六万四千円。
合っていた。
(よし)
そのまま返事をしかけて、先に日程を開いた。
俺は金額を見るのが好きだ。だからこそ、何をすればもらえるのかも読まないといけない。
撮影は二週間後の木曜日と、その次の木曜日。一日ずつ、合計二日。
その間の月曜日に、石倉さんの制作室で歌を録る。
どちらの撮影日も、普段の店の勤務とは重ならない。月曜日の録音は三時までなので、六時の出勤にも間に合った。
歌も芝居も、俺が担当することになっている。
そこを読んでから、次へ進んだ。
*
支払いは、八万八千円ずつ三回だった。
最初は完成確認後、初回の公開より前。残りも支払日が書かれている。
全部が一度に入るわけではない。
それでも、その先の二回分まで、仕事として予定ができる。
毎月同じだけ稼げる人になった、とまでは思わなかった。これは今回の三本の代金だ。
でも、来月にもその次にも受け取るものがあるのは、かなり心強かった。
使う場所は店の画面と公式のページ、公式の発信から流す広告。期間は初回の公開から九十日。
今までの録音より、自分の顔が出る場所は増える。
テレビに出る契約ではなかったが、知っている店の画面には出る。
俺は朝の佐野の絵を見た。
あの店へ買い物に行ったら、自分が靴下を探しているかもしれない。
(買うものを忘れそうだな)
見に行きたいほうの気持ちが、もう勝っていた。
気になった追加録音の範囲を三枝さんへ確認し、返事を読んでから、正式にお願いしますと送った。
*
返信を終えたあと、ゲームを開いた。
広告の予定ばかり気にしていたが、こちらも次の買い物を決めたかった。
プラントは八基、中枢は五基、塔は三基。
搬送の改良を買ってから、キューブの増え方は前より速くなっている。ただ、次の中枢の値段にはまだ遠い。
俺は改良の欄を開いた。
先日の搬送改良で、選べるようになったものがある。
【中枢連結制御】
【必要キューブ:12垓】
同じ働きをしていた五つの中枢に、順番をつけるものだった。
一つ目は一列分、二つ目は二列分、三つ目は三列分。
五つ並べていたものが、合計十五列分働くようになる。
今の中枢から作られる量は、三倍。
俺は、説明をもう一度読んだ。
(それは先に言ってくれ)
買える条件になったのは、搬送を直したあとだと、すぐ下に書いてあった。
文句を言う先がなくなったので、値段を計算機へ入れた。
日曜日の夕方には届きそうだった。
その時間は舞台にいる。今回は、翌日の昼に自分で買うことにした。
*
もう一つ下に、まだ押せない改良があった。
【三段接続】
【必要キューブ:64垓】
【中枢連結制御・循環複製塔3基が必要です】
名前の横に、小さな図がある。
今の塔は、どれも中枢から同じ量を受け取って、それぞれ増やしていた。
図では、一つ目の塔が増やしたものを、二つ目へ送っている。
二つ目は、それをまた増やして、三つ目へ送る。
俺は、背もたれから体を起こした。
(待て。前のやつが増やした分も、入るのか)
そう書いてあった。
最後から最初へ戻すことはできない。三基で一組だけで、四基目を買っても勝手に四段にはならない。
それでも、今よりずっと増える。
倍率を計算すると、数字が大きくなりすぎて、一度打ち直した。
同じ答えだった。
ほしかった。
さっきまで、次の中枢一基をどう買うか考えていたのに、今は六十四垓までの道を探している。
*
何も買わずに貯める場合と、先に十二垓を使う場合を比べた。
十二垓は、もちろん減る。
ただ、そのあと三倍で貯め直せる。
今のまま六十四垓を待つより、早く届いた。
先に連結制御。
次に、三段接続。
その間は、設備の自動購入を入れずに貯める。
紙へ順番を書き、確認したところで、スマホが鳴った。三枝さんから、正式な受諾への返事だった。
『ありがとうございます。まず来週木曜日に、衣装と動きを確認しましょう』
俺は仕事の予定を開いた。
その横には、いま書いた十二垓と六十四垓がある。
(混ぜるなよ。向こうに送るなよ)
ゲームの紙を伏せ、木曜日の十三時で大丈夫です、と返した。
返信先を見直してから、送信を押した。




