第118話 八基になったので、次を選ぶ
土曜日の午後一時すぎ、曲の録音を聞いていると、視界の隅に通知が出た。
【購入予約が完了しました】
【複製プラント:8基】
俺は、すぐにゲームを開いた。
八基になっていた。
少し前から、ずっと待っていた数字だった。
購入の履歴を見る。
午後一時十九分四十七秒。
中枢の改良を買ったあとに計算した頃と、合っていた。
あのとき四垓を使わずに貯めていたら、まだ待っていたはずだ。
俺は、設備の欄を開いたまま椅子へもたれた。
(買ってよかった)
こういうところが、かなり好きだった。
*
【生産速度:約1,154兆/秒】
プラントが一基増え、毎秒の生産も上がっている。
所持額は、ほとんどなくなっていた。
それでも、見ている間に新しいキューブが入る。
今回の予約は、これで全部終わった。
塔を三基にして、中枢を五基にして、最後にプラントを八基へ。
選んだ順番が、最後まで進んだ。
次の設備を勝手に買い続ける設定にはしていない。
このままなら、キューブは貯まっていく。
俺は設備の値段を、上から見直した。
*
次の中枢は、四百垓を超えていた。
まだ一桁目を見たところで、少し顔をしかめる。
(高い。見直しても高い)
プラントの九基目も、塔の四基目も安くない。
今のまま次の中枢だけを待ったら、一年以上かかる。
予約を入れる前に、改良の欄を開いた。
八基目を買ったことで、一つ選べるものが増えている。
【搬送比率の改良】
【価格:8垓キューブ】
プラントが中枢の出力を押し上げる割合を、大きくするものだった。
今あるプラントも、中枢も、そのまま使える。
新しい設備を一つ足すより、すでに並んでいるものを強くしたほうが、今は伸びるらしい。
説明を読み、計算機を開いた。
これなら、八日ほど貯めれば届く。
買ったあとの毎秒は、今の一・八倍くらいになる。
俺は、もう一度、次の中枢の値段を見た。
こちらは、あとにしたかった。
*
購入予約の欄は、空のままにした。
先に八垓を貯める。
届いたら、改良を買う。
そのときの生産で、もう一度、次の順番を考えたかった。
最初は、生成器をもう一台買うかどうかで迷っていた。
今は、持っている設備同士が、かなり関わるようになっている。
その一か所を変えただけで、全部の先が早くなる。
俺は買えないボタンから意識を離し、数字が増えるところを少し見た。
八日なら、待てた。
来週の日曜日には、映画の上映がある。
そちらの準備をしているうちに、また貯まっているはずだった。
*
スキルの欄も開いた。
残りは、二ポイント。
作曲が、一になっている。
録音した短い旋律は、あれから少し変えた。
最後の音を変えすぎると、最初に気に入った感じまでなくなる。それがわかったので、三回目の録音を残している。
ゲームを閉じ、スマホの再生を押した。
十六秒ほど、俺の声が流れる。
さっきまで大きな数字を見ていたせいか、再生時間がやけに短く見えた。
でも、その短いところが気に入っていた。
もう一度聞く。
これを、誰かが聞いたらどう思うのだろう。
上手に歌うことなら、前より自信があった。
自分の作った音を聞かせるのは、また少し落ち着かなかった。
俺は、藤崎さんとのメッセージを開いた。
前に、また歌を聞かせてほしいと送っている。
来週の月曜日なら、夕方に二人とも店へ入る前に会えそうだった。
『月曜日、仕事の前に少し歌いませんか』
そこまで書いてから、もう一文、足した。
『自分で少し作ったものも、聞いてもらいたいです』
見直して、送った。
録音をそのまま送りつけるより、目の前で聞いてもらいたかった。
返事が来るまで、また自分で再生した。
三回目、と付けた録音を流す。
さっきも聞いたのに、やはり最後まで聞いてしまった。




