第116話 一ポイントの新曲
月曜日の朝、鍵盤の前で、鼻歌を二回録った。
どちらも、途中で止まっていた。
最初の数音は気に入っている。
ただ、そのあとが続かない。
上へ行くと、知っている別の曲に近くなる。下へ行くと、終わった感じになる。
録音を再生し、鍵盤で音を探す。
少し違う音になった。
違ったほうがよい気もしてきた。
(どっちだったんだ、今の)
俺は録音を、もう一度聞いた。
*
ゲームを開いた。
所持スキルポイントは、三。
歌唱の九には届かないし、演技の八にも足りない。
それでも、一から試せるものはたくさんあった。
検索の欄に、作曲、と入れる。
【作曲 Lv.0 → Lv.1】
【必要スキルポイント:1】
見つかった。
俺は、しばらくその欄を見た。
佐伯さんが弾いてくれたものの続きを作りたいわけではない。
自分が今、気に入っている最初の音を、もう少し先へ進めたかった。
他人の曲を上手に歌うのは、今でも楽しい。
でも、音を選ぶところにも、手を出したくなった。
買えば、残りは二。
俺は購入を選んだ。
【作曲 Lv.1】
【所持スキルポイント:2】
鍵盤へ向き直る。
いい曲が、そのまま頭に流れてくることはなかった。
(完成品は付いてこないか)
とりあえず、さっきの録音を流した。
*
最初の音を聞き、声でなぞる。
同じ長さの音が続くところを、一つだけ短くしたくなった。
そのあとに、長めの音を置く。
さっきより、次へ行きやすかった。
鍵盤でも試そうとしたが、指がうまく動かなかった。
一度止めて、歌うほうで続ける。
それなら、思った高さの音を出せた。
歌唱の八は、こういうときにも便利だった。
最初に作った部分を繰り返し、二回目の終わりだけ変える。
ずっと同じ音へ戻していたところから、最後の二つを少し動かした。
俺は、口を閉じた。
今度は、途中で途切れた感じがしなかった。
短いけど、一度ここで終われる。
もう一回、最初から歌った。
次も、同じところへ着地できた。
(おお)
スマホを取って、録音した。
*
再生時間は、十六秒ほどだった。
歌詞はない。
伴奏もない。
部屋で俺が、鼻歌を歌っているだけだった。
それなのに、最後まで聞くと、もう一度押したくなった。
少し速くしてみる。
落ち着きすぎていた感じが減った。
もう少し速くすると、今度は急いでいるように聞こえた。
一つ前へ戻す。
こっちが、好きだった。
俺は録った順番がわかるように、名前を付けた。
『新しいの 三回目』
保存してから、少し眺める。
ほかに思いつかなかった。
(題名の才能も、一緒には買えなかったらしい)
今は聞き分けられれば、それでよかった。
*
鍵盤で一音ずつ確かめながら、使ったところへ指を置く。
声で出せても、すぐに両手で弾けるわけではなかった。
しばらくは片手で、ゆっくり試した。
最初のところだけ、つながる。
その先で指が止まる。
俺は笑って、もう一度最初へ戻した。
急いで誰かへ渡す仕事ではない。
今日は、これを繰り返しているだけでも面白かった。
気づくと、昼を少し過ぎていた。
机の端に置いたスマホを取り、もう一度、鼻歌のほうを再生する。
十六秒で終わる。
短かった。
でも、昨日までは、この十六秒もなかった。
俺はその部分だけ、小さく歌いながら台所へ行った。
冷蔵庫を開け、残っていた卵を出す。
何を作るか考えている間にも、最後の二つの音が浮かんだ。
口に出す。
今度は、そのあとに別の音を足したくなった。
卵を置きかけて、手を止める。
(先に食え。夕方、仕事だぞ)
忘れないようにスマホへ短く吹き込み、フライパンを出した。




