第104話 今日は、家にいたい
月曜日の朝、店長から来月のシフトが届いた。
月、水、金。
夕方からの勤務が、週三日を基本に並んでいる。
相談した公演の日は、入っていなかった。
俺は、次の録音の日も確かめた。
午後の仕事を終えてから、店へ行ける時間になっている。
来週の選考も、予定していた午後二時で案内が来ていた。
少し前なら、次の仕事がいつあるのかわからないまま、勤務を減らす気にはなれなかった。
今は、終えた仕事の報酬が口座にあり、この先に行く公演と録音も決まっている。
それを見てから、三日にした。
『確認しました。ありがとうございます』
店長へ返した。
*
今日は、前から入っていたシフトでも休みだった。
来月の練習だと言うほどのことではないけど、家にいる日に何をするかは決めていた。
唐揚げを作る。
ゲームをする。
歌を聞く。
そのくらいだった。
(十分、忙しいな)
自分にとっては、かなりいい予定だった。
冷蔵庫から、昨日買っておいた鶏肉を出す。
切って味をつけ、少し置いてから粉をまぶした。
料理を一にしたときから、このくらいの手順は前より楽に選べる。
油へ入れる大きさも、火の通り方も、闇雲に待たなくてよかった。
鍋の前に立ち、色が変わるのを見た。
*
その間、頭の中の画面は閉じておいた。
あとで見ても、キューブは増えている。
鍋のほうは、見ていたほうがよかった。
揚がったものを取り出し、皿へ置く。
一つ、切って確かめた。
中まで火が通っていて、外は、思っていたように軽くなっていた。
端を少し食べる。
熱かった。
俺は、口を閉じたまま息を吸った。
(待てよ。そこは、わかってただろ)
味は、かなり好きだった。
残りも皿へ盛り、野菜と、ご飯を並べた。
*
昼前に、ゲームを開いた。
木曜日に増えた中枢は、五基目だった。
履歴を開き、午後一時すぎの購入を、もう一度確かめる。
あの日は、選考の応募を送ったあと、台詞を何度も読んでいた。
台詞を試している間にも、予約した順番は進んでいた。
塔が三基あり、中枢から来た分を、また増やす。
毎秒の生産は、六百九十二兆ほどになっていた。
俺は、数字が変わるところをしばらく見た。
(いいな)
次は、プラントを八基まで。
予約は、そのまま残っている。
今ある分では届かないけど、買えたら、その次に何を増やすかも考えたくなるだろう。
スキルポイントは三。
演技に使った十三点も、もう働いてくれた。
来週の選考で、あの顔を使ってみるつもりだった。
*
食べながら、新しく買ったゲームの続きを開いた。
この前詰まっていたベルトを、一本分だけ遠回りさせる。
材料が流れた。
すぐ先で、別の機械が止まっている。
足りないものを確かめ、設備を一つ増やした。
今度は、ちゃんと隣へ運ばれた。
俺は、唐揚げをもう一つ取った。
好きなものを食べながら、好きな数字を増やしている。
午後にも、急いで出かける予定はなかった。
出勤まで残り何分かを気にせず、好きなところまで遊べる。
それだけで、いつもの昼より嬉しかった。
*
食器を片付けたあと、『椅子をふたつ』の伴奏を小さく流した。
歌詞の紙は、机の横に置いてある。
見なくても、もうわかった。
声を少し出して、途中の好きなところだけ歌った。
仕事では、まだ何度も歌える予定がある。
家では、好きなところへ戻ってもいい。
同じ部分を、もう一度なぞった。
スマホに、藤崎さんからメッセージが来た。
『シフト見たよ。来月も、水曜は一緒だね』
俺は、短く返した。
『はい。また歌、聞かせてください』
返事を待つ間に、相原さんへ送った歌会の話も思い出した。
日が合えば、また行きたい。
来週は、別の役を演じてみる。
その先には、同じ二人と出る舞台がある。
俺は予定表を閉じた。
今日は、どこへも行かなくてよかった。
ゲームの画面へ戻り、止まっていた設備の設定を開く。
直せそうな場所が、まだ見つかった。
「……もう少しだけ」
小さく言って、椅子を引き寄せた。
次に時計を見たときには、きっと少し後悔する。
でも、今日は休みだった。




