第5話 神社
神社をもう一度調べる必要があった。あの裏手の小径。私が「知っていた」道。タクシーの運転手の警告。すべてが一つの場所を指していた。
朝早く神社へ向かった。石段を登り、脇を回り、藪に隠れた小径へ入った。足は迷わなかった。右へ折れ、倒木を越える。古い井戸が現れた。私が「知っていた」とおりに。
井戸の先に崩れかけた古い祠があった。扉を開けると、古い木箱がいくつか積まれていた。蓋を開けると黄ばんだ紙の束が出てきた。村の古い帳簿のようだ。けれど多くは破られ、燃やされた跡があり、断片しか残っていない。
読める部分を拾い読みした。日付は七十数年前。戦後すぐ。帳簿には村の住人の名前と何かの数字が並んでいた。ある一群の名前の横に同じ印が押されていた。読めない朱印。その名前の列の最後に、こう書かれていた。
『右、処分済』
処分。
その二文字を長く見つめた。
別の紙片に地図のようなものが描かれていた。神社の裏手、この祠のあたりに印がつけられ、そこに「埋」と記されていた。
埋。
七十数年前、この村で何かが起きた。何かが、ここに埋められた。「処分済」の人々。その意味を考まいとした。けれど思考は勝手にその先へ進んだ。
集団で、人が殺されたのではないか。
戦後の混乱期。山奥の閉ざされた村。複数の人間が「処分」され、その証拠が、ここに埋められた。この村が七十年以上も守り続けた秘密。
二十年前。新しい紙を見つけた。ワープロで打たれた書類だ。ダム建設の計画書の一部。日付は二十年前。計画によれば、ダムの建設でこの一帯は水没することになっていた。神社も、この祠も。
もし水没すれば、埋められたものは調査される。掘り起こされる。秘密は露見する。
だから村は必死だった。
断片を握りしめた。手が震えていた。
その時、背後で声がした。
「そこまでにしておきなさい」
振り返ると、老人が立っていた。杖をついた。村で何度か見かけた、長老格の男だ。その目には敵意と奇妙な悲しみが同居していた。
「お前は、知らなくていいことを知ろうとしている」
「あなたたちは何を隠しているんです」
老人は答えなかった。代わりにこう言った。
「お前は、帰ってきてはいけなかった。あの子を、また、苦しめるだけだ」
「あの子? 澪のことですか」
老人は首を横に振った。
「お前が、忘れていることを」と彼は言った。「思い出さないほうが、お前のためだ」
そして背を向けて去っていった。
祠の前に立ち尽くした。お前が忘れていること。空白の子ども時代。知っているはずのない道。削られた少年への奇妙な親しみ。すべてが一つの方向を指し始めていた。




