第4話 嘘
翌日、沙月の証言を改めて確かめることにした。彼女は協力者を名乗っていた。けれど役場の記録との矛盾がある。姉なのか妹なのか。話の細部を検証していった。
鳴神館の食堂で向かい合って座った。
「澪さんが失踪した日のことを覚えていますか」
「もちろんです。夏祭りの夜でした。姉は夜になっても帰ってこなくて。村中で探しました。でも見つからなかった」
「あなたは、その時、何歳でしたか」
沙月は視線を泳がせた。
「十二歳でした」
「澪さんと同い年だ」
「双子ではありません」と彼女は急いで言った。
「年子で、歳が近かったんです」
年子なら一つ違う。けれど彼女は同い年と言った。手帳にそう書き留めた。証言は会うたびに少しずつ形を変えていく。
「夕方に流れる放送のことですが」
沙月の手がテーブルの上で止まった。
「あれは何ですか。霊が放送設備を使いますか」
長い沈黙があった。やがて沙月は顔を上げた。表情は、これまでになく硬かった。
「あなたは、思い出すべきです」と彼女は言った。
「あの放送はそのためにあるのですから」
その言葉は明らかに一つのことを認めていた。あの放送は自然現象でも霊でもない。誰かが意図して流している。そしてそれは——私を何かへ向けて誘導しているのだ。
その夜、確かめようと思った。放送の出所を突き止めれば、この村の仕掛けの一端がつかめる。懐中電灯を手に、村の中心へ向かった。スピーカーは役場の屋上と神社の脇と、かつての公民館の二階に設置されているらしい。
公民館は廃墟同然だった。けれど二階の窓に明かりが灯っていた。息を殺し、軋む階段を登った。放送室のドアは細く開いていた。中から低い物音がした。テープを巻き戻すような音。それから人の気配。
ドアを押した。
部屋の中に人影があった。古い放送機材の前に、背を向けて立つ誰か。ほっそりとした体つき。女のようだった。
「沙月さん」と呼んだ。
影がびくりと動く。けれど振り返らなかった。その瞬間、放送機材のスイッチが入り、スピーカーから歪んだ声が耳元で轟々と鳴り響いた。
『……あおい……あおい……』
ひるんだその隙に、人影は窓のほうへ動き、明かりが消えた。懐中電灯を向けた時、部屋には誰もいなかった。ただ機材のテープが回っていた。
巻き戻して再生した。流れてきたのは子どもの声を機械で歪ませ引き伸ばした、人工的な音。録音された声。誰かが子どもの声をもとに、この「霊の放送」を作っていたのだ。
テープのケースに図書館の蔵書整理用ラベルが貼ってあった。沙月だ。けれど顔は見ていない。確実ではない。




