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第3話 顔のない少年

 沙月が勤める図書館は村の外れにある小さな建物だった。蔵書のほとんどは古く、利用者はほとんどいないようだ。沙月は奥の郷土資料室へ案内してくれた。

「姉のことなら、ここにある写真を見ていただいたほうが」

彼女は知っているのだ。役場の記録が欠落だらけであることを。それを確かめたか、あるいは誰がそれを抜き取ったかを知っているか。どちらかだ。


写真の束を一枚ずつ検めた。村の祭りの写真。集合写真。子どもたちが川で遊ぶ写真。すべてに奇妙な点がある。人が削られている。ある写真では子どもたちの列の中の一人が、顔だけ刃物で削り取られていた。別の写真では家族の集合写真の端に立っていたはずの誰かが、その輪郭ごと白く塗りつぶされていた。

「これは」

「村の風習です」と沙月が静かに言った。

「村を出た者、村を裏切った者の顔は、消すのだと」

その説明を信じなかった。けれど口には出さなかった。


束の一番下に一枚の写真があった。学校の校庭で撮られたものだ。二人の子どもが並んで立っていた。一人は神崎澪だった。役場で見たのと同じ、寂しげな目をした少女。その隣に、同じくらいの背丈の子どもが立っていた。


その子どもの顔は削られていた。


顔の部分だけが丁寧に刃物で削り取られていた。けれど体つきや髪の短さから少年であることはわかった。澪とよく似た痩せた肩。二人は手をつないでいた。


その写真を見つめた瞬間、激しい頭痛が襲った。


目の奥が灼けるように痛い。耳鳴りがした。ほんの一瞬だけ、脳裏に光景がよぎった。夕暮れの崖。風の音。子どもの笑い声。それから、誰かが私の名を呼ぶ声。


写真を取り落とした。


「大丈夫ですか」と沙月が私の腕を支えた。


「この子は」と私は、かすれた声で尋ねた。

「澪の隣のこの子は誰ですか」


沙月は答えなかった。ただ私の顔を、じっと見ていた。底の見えない目で。やがて彼女は床に落ちた写真を拾い、束に戻しながら、ぽつりと言った。


「あなたには見覚えがあるのではないですか」


何も答えられなかった。


顔のない少年。削られた顔の輪郭に奇妙な親しみを感じた。鏡を見ているような。けれど違う。私はこの村の人間ではない。東京から来た調査者だ。この少年が私であるはずがない。


あるはずがない。


けれど、自分がいつ生まれ、どこで育ったのか、その確かな記憶を、たどろうとして——たどれなかった。子ども時代の記憶がほとんどない。ずっと前から気づいていたことだ。けれど忙しさのせいだと、あるいは平凡な幼少期だったのだと、そう思い込んできた。


その夜、放送が流れた時、初めてはっきりとその声を聞き取った。


『……あおい……あおい、どこ……』


澪ではなかった。別の名を呼んでいた。

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