第2話 消えた少女
翌朝、役場を訪ねた。古い木造の建物。職員は二人。二十年前の失踪事件について尋ねると、年配の職員は明らかに表情を硬くする。
「あの件は終わったことです」
「終わった?」
「捜索は打ち切られました」
ファイルを一冊渡された。薄い。ページをめくると、欠落だらけだ。失踪届はある。捜索の経過記録もある。肝心な部分が、ことごとく抜けている。遺留品の一覧。最後に澪を目撃した者の証言。家族構成の記載には父と母と、沙月の名だけ。
澪は十二歳で失踪した。沙月は澪の妹だと名乗った。けれど記録では沙月は澪の姉になっている。私は手帳にそう書き留めた。
ファイルの最後に写真があった。神崎澪だ。学校の制服を着た少女。痩せた頬、大きな目。寂しげな表情。胸の奥が鈍く痛んだ。なぜか。
「ほかの写真は」
「ありません」
「家族の写真は」
「ありません」
職員の答えが機械的だ。まるで用意していたかのように。役場を出ると、私は神社へ歩いた。タクシーの運転手が言っていた、神社の裏。そこに何かがある。
神社は村の中心から少し外れた丘の上だ。石段を登ると、苔むした鳥居があり、その奥に小さな社殿がある。脇を回り、裏手へ出ようとした時——足が止まった。
道を、知っていた。
社殿の裏には藪に隠れた細い小径がある。地元の人間しか知らないような道だ。けれど私は、その道がどこへ続くのか、わかっていた。右へ折れ、倒木を越える。古い井戸がある。その先に——
頭が割れるように痛んだ。
視界が白く飛ぶ。藪の向こうに誰かが立っているような気がする。小さな影。子どもの影。けれど目を凝らすと、そこには何もない。なぜ、この道を知っているのか。資料に載っていない。沙月からも聞いていない。なのに足は迷わずここへ来た。
調査者の勘か。長く人を探していれば、土地の気配を読む力がつく。そう自分に言い聞かせた。
社殿に戻ると、賽銭箱の上に白い紙が一枚、置かれていた。小石が乗せてある。手に取った。鉛筆で震えた字が書かれていた。
『澪をさがすな。さがすなら、もうひとりをさがせ』
もうひとり。
周囲を見回した。誰もいない。風が杉の梢を揺らし、遠くで鴉が鳴いている。
その夜、部屋で何度もその紙を読み返した。もうひとり、とは誰のことか。澪には妹か姉がいる。沙月だ。けれど名前で書けばいい。まるで名前を持たない誰か、名前を出してはいけない誰かのことを指しているようだった。
窓の外で、また放送が流れた。
『……みお……どこ……』
歪んだ女の声。私は窓を細く開け、耳を澄ました。声は確かに村の中心の方角から聞こえていた。死者は放送機材を使わない。あの声には必ず生きた人間の出所がある。そう自分に言い聞かせた。




