第四話 ひとひらの重み 後編・中
六月下旬。
水本市中心部、城の近くにあるホテルの会議室では株式会社ベイローレルの株主総会が執り行われていた。
事務局として参加していた星野にとって、入社以来何度目かの株主総会だったが、今回に関してはやけに儀式めいて見えていた。
冒頭挨拶、議案の提示、そして質疑応答。
長屋浩が今後の日常決裁と対外署名に関与しないこと。水本鏡花が水本家からの派遣ではなく、会社が必要とした取締役候補であること。
問われたのは、ほとんどその二点だった。
事前に提出された委任状と意思表示を含め、必要な数は満たしていた。
議案は、必要な賛成を得て可決された。
始まる前の待機中も、会場の隅でラップトップPCに向き合って記録している今も、考えていることは同じだった。
(後にも先にも、こんな状況には出くわさないだろうな)
社内も社外も、状況は荒れているにもかかわらず、株主総会は凪のまま閉会しようとしている。
この場の全てがなにか噛み合っていない。そんな奇妙な光景を記録しているからこそ、一瞬、ほんの一瞬だけ、星野はそう思った。
(……変なの)
閉会直前の司会者の注意事項の説明中、名越は差し替えた役員候補者一覧を見ていた。
長屋浩の名前の横に、小さく注記が刷られている。
非常勤。無給。代表権なし。
(この小さい文字がなければ、長屋さんの名前でまた会社が動く、か。考えてみりゃ変な話だな……)
責任の大きさは感じていた。
しかしその重さを長屋から直接受け取れなかった。
その事実は、名越に感傷とも皮肉とも言えないような、そんな思いを抱かせるには十分だった。
だが時間は前に進んでいる以上、いつまでもその場に留まることを許してはくれなかった。
「では最後に議長より、ご出席の皆様に一言ご挨拶を申し上げます」
司会者の言葉を受けた名越は、議長席でゆっくりと立ち上がった。
「ご出席の皆様、本日はご多忙の中お集まりいただき、ありがとうございました」
そう言って、頭を下げた。
社長らしいことを言うには、まだ早すぎた。だが、社長として頭を下げることだけは、もう避けられなかった。
決まった。
けれど、現実になるのは七月一日だった。
その年の株主総会は、三十分ほどで閉会した。




