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故郷と呼べる場所   作者: 那珂湊
第二章 「空」を見上げて
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第三話 午後、春の足音

「お父様。先日のお話、わたくしが受けますわ」

 父の表情は驚きを隠しきれていなかったが、

「……そうか。おまえがそう決めたなら、父さんは何も言わないよ」

 その一言が、複雑な胸中をよく表していた。

「反対なさらないのですね」

「反対してほしかったのかい?」

「いいえ。もし反対なさったなら、わたくしにも考えがありましたわ」

 我が娘ながら、誰に似たのやら。

「確かに一度は断ったのに、受けると言われて多少驚いているよ。だがな、昨日母さんにも今回の話をしたんだ。言っていたよ。うちの娘は、少しでも気になれば自分の目で確かめないと気が済まないってな。だから多分、最初とは考えが変わっているだろう、と」

「お母様には敵いませんわね……」

「……もう一度聞くが、本当に良いんだな、鏡花?これでもおまえの父親だ。自身の目で見て、そしておまえの判断で決めた。ならばテコでも動かないだろうってことくらいは分かる。だが……」

 父はやはり、父だった。

「申しましたでしょう。わたくしの判断ですわ」

 ぴしゃり、と父親の心配を一蹴した。

 同時に鏡花は少し困ったように微笑みながら、

「お父様もお母様も、水本家の人間としては最低ですわ。でも、わたくしたち姉弟にとっては最高の両親です」

 子離れできていない父親だな、と苦笑するしかなかった。

「年頃の娘にそこまで言われると、少なくとも子育ては間違っていなかったと安心するよ」

 娘に出来ることはもう少ないと感じつつ、父親としての顔から旧い家の人間へと切り替える。殊更しかつめらしい顔になり改めて娘に向き直る。

「では先方には「依頼は引き受ける」と伝えよう。先日の様子だとすぐにでも面談することになると考えておきなさい。……家名を汚すことのないようにしなさい」

「承知いたしました、お父様」

 父の本心ではなく、あくまで儀礼的なものと分かっていても、やはり『家』が出てくる時の父親はどこか、知らない人間のようで好きではなかった。



 父親の言うとおり先方の動きは速かった。

 水本家の話がまとまったのが朝一で、父が自身の業務をこなしてから名越に連絡を入れたのが、午前十時過ぎ。

 あえて水本家の誰が行くとは言わなかったが、そんなことすら気にしていられないのだろう。二つ返事だった。


 そして午後二時前。

 名越は社長室で来客を待っていた。

 この場所を面談の場所に選んだのには深い意味はない。

 つもりだった。

 未だ社内でこの件を知っている人間はいない。

 よって、今は殆ど人気のないこのフロアは密談には打って付けだった。

 唯一、部下の星野には、二時に来客があるから来たら速やかに社長室に案内するよう伝えてあった。

 だが来客があった時点で、すわ何事かと騒がれるだろう。だからせめて話は落ち着いてしたかった。


 鏡花の腕時計は午後一時四十五分を指していた。

(さて、相手は十中八九昨日見かけた名越さんという方でしょう。タバサさんの様子を見るに気難しい方なのでしょうけど……)

「やるしかない、ですわね」


 気合いを入れてベイローレル本社の正面に立つと、

「どうも」

 タバサがいた。

「…………どちら様ですか?」

「つれないなぁ……。少しくらいびっくりしてよ」

「初めてお目に掛かる方に、一々驚いていられませんわ」

(これでも、かなり驚いていますわ!)

 心の声で答えるのがやっとだった。

 周りに気取られぬように、手近な壁にもたれかかりお互いに別の方向を向きながら小声で、

「突然現れないでくださいまし」

「突然現れなきゃ意味ないと思って」

「一体何なのですの?なんでこの時間にこんな場所にいらっしゃるのです?」

「そりゃあ、内部にいるよそ者ですから。昨日の様子を見れば、まぁなんかあるよね」

 重要な場面を前にして頭痛がしてきた。

(本当に良く見てらっしゃること……)

「……その心は?」

「臨時アシスタントへ贈る言葉、かな」

 相変わらずお互いに別の方向を向いている。

 だが、微かに声は聞こえていた。

「……まったく、困った先生ですわ。もしわたくしがここの社員ならすぐに追い出していますわ」

「お嬢様は怖いね」

 相変わらずお互いに別の方向を向いている。

 だが、お互いに微かに笑っていた。

「がんばれ」


 そう言うとタバサは、今日も取材へ、そして鏡花は社内へ、お互い別の戦場に向かっていった。


 午後一時五十分。

 星野は来客用内線電話に意識を集中していた。

 名越の席に呼び出されて、小声で来客がある旨を伝えられたのが午前十一時頃。

 その際の言葉が気になっていた。

「午後二時に来客があるので、名前などは聞かないで、いらしたら速やかにエレベーターで社長室にご案内してください。あとこの件に関しては聞かれても知らぬ、存ぜぬ、で通してください」

 いかにも怪しい指定だった。名前を聞いてはいけない上に、案内する場所は社長室。しかも名越の顔は誰が見ても焦っていた。

(これで、気にするなと言われても……)

 内心、胡散臭い話と思いつつ一応了解していた。

 だから来客用内線が鳴った時には好奇心が勝っていた。

「はい。ベイローレル受付です」

「午後二時に総務部長の名越さんとお約束している者です」

 若い女性の声だった。困惑を声にしないのが精一杯だった。

「ただいまご案内いたしますので、少々お待ちください」

 困惑しつつも、大部屋を飛び出し、駆け足で階段を降り、正面入口に着く前に息を整える。

「お待たせしま……した……」

 来客の姿を見た星野が、一瞬驚きの余り声を失った。

 なぜこんなところに、いかにもなお嬢様が?

 周りに人がいないせいか、余計にその存在が浮いている。

「時間ギリギリになってしまい、申し訳ありません」

 その人は優雅に一礼する。余りに堂に入った所作だった。

「あ、いえ、ご案内します。こちらへどうぞ」

 名越の指定通り、案内するが、頭の中は驚きと疑問で一杯だった。


 社長室のドアがノックされたのは午後二時丁度だった。

「はい、どうぞ」

 返事をすると星野が扉を開け、その後ろには……

「…………………………」

 名越は驚きの余り声を失った。

 確かに『水本家の人間を』と言った。

 言ったのだが……。

 その姿は、若手のキャリアウーマンと箱入りのお嬢様を足して二で割ったような、物腰柔らかな印象の、腰の辺りまでロングヘアを伸ばした、どう見ても二十代の女性だった。

 なんか見たことある気もするが、少なくとも名越の考えていた人物像とは、これでもかというほどかけ離れていた。

(確かに誰が来るとか聞いてなかったけど、こりゃあ……)

 目の前の人物はニコニコと笑顔を浮かべている。

 本当にこの人か?と、入口を見ても、既に扉は閉じられ、星野はいなかった。

(優秀な部下を持って幸せだなぁ、チクショウ)

 内心で悪態を吐いても、全て自身が指図したこと、自身が動いた結果。

 だが、心中は穏やかではなかった。

 そしてまた、機先を制されたのも自身の招いた結果だった。

「初めてお目に掛かります。わたくし、水本鏡花と申します。当代の長女ですわ」

 驚きの表情の名越に対して、目の前の女性は余裕を崩さず挨拶をする。それに、

「……ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。。株式会社ベイローレル総務部長の名越一馬と申します。本日はご足労頂き恐縮です」

 社会人として最低限の挨拶が精一杯だった。


「お話は父から伺っておりますわ。先日来の災害の影響で状況があまりよろしくないとか」

 鏡花が切り込んだ。

「……ええ、お恥ずかしながら私の力不足でして」

「この度のことでは、皆さん大変な思いをなさっていますわ。そうご自身を卑下なさらないでくださいまし」

「お気遣い頂きありがとうございます。ですが今回のことで私の至らなさ加減を痛感しました。ですから恥を忍んで水本さんにご相談をさせていただいたのですが……」

 尻切れトンボの言葉は、言外に『あんたはなにしに来た』と問うているも同然だった。

「本日参りましたのは、その件をわたくしがお引き受けする前提で、お話を伺うためですわ」

 鏡花は真顔で告げた。

「いや、しかし……」

 何かの冗談であってくれ。

 だが青ざめる名越の願いもむなしく、

「父が本日わたくしをここへ寄越したこと自体が、水本家としての返答、とお考えくださって差し支えありませんわ」

 事実は小説よりも奇なり。そして有無を言わせぬ迫力だった。

 名越は顔面蒼白に近く、内心では頭を抱えていた。

(勘弁してくれよ、お嬢様の職業体験じゃねぇんだぞ……)

「お疲れのご様子ですわね」と心配する鏡花に対し、

「ははは……。最近働き詰めでして、少し眩暈が……」

 と誤魔化した。

 それは大変ですわね、と前置きをして、

「先に申し上げておきますが、お疲れだからと長屋さんの代役をお求めでしたら、お断りいたしますわ」

 その言葉とは裏腹に微笑んでいた。だが同時に、状況を理解した上で来ている、しかもこちらの意向も理解していることは察せられた。

(いや、どうしたもんだか……。この部屋に招き入れた以上、追い返すわけにもいかないし……)

「それも水本家のご意向で?」

 少しトゲのある問い方が名越の精一杯だった。

「そう捉えて頂いて結構ですわ」

(あぁ……、この娘を受け入れる以外に選択肢はないのか……)

 数瞬考えた結果は、押し問答をするよりもひとまず折れて話を進めた方がマシだった。


 ふぅー、と色々な感情がない交ぜになった長いため息をついて、名越は頭を切り替えた。

「水本さん」

「この街には水本ばかりなので、わたくしのことは鏡花とお呼びくださいまし」

「……鏡花さん、でしたか。来ていただけるなら、すぐにでも来ていただきたい。ですが、詳細を詰めなくてはなりません。ここからは来ていただく前提のお話なので、外には出せない話、かなり機微に触れる話となりますが、よろしいですか?」

 名越は、お前も同じ重荷を背負う覚悟はあるかと、問うていた。

「……お話を伺う覚悟がなければ、最初からこちらには参りませんわ」

 無鉄砲か強心臓か、名越には図りかねたが、少なくとも話すしかないのは分かった。

「ことの始まり、と言ってもつい半月ほど前ですか。地震のあった日、弊社の社長である長屋が、地震の直後に現場に飛び出してしまいました。それ以来、まぁ、その……、連絡が付かなくなったのです」

 思い出したくないことを思い出す表情だった。

「元々長屋と私、二人の取締役の下に各部門長という、事業規模に対して、よく言えば速やかな意思決定が可能な体制だったのです。だが、長屋と連絡が付かなくなってからは実質私一人で全社を見ることになりました。元々長屋の存在が大きかった我が社ですが、問題は『あまりにも一人で見るには大きすぎた』ということです。私の器では、とにかく来たものを決裁するのが関の山。そのせいで決裁のさらにその先を求める社員たちの不満は爆発寸前。制御不能というと無責任に聞こえますが、実態はそうなんです」

 言いにくいことだったのだろう。手を膝の上で組んだまま、名越はその手元に視線を落としていた。


「大まかな状況は分かりました」

 話を聞いて考えていた。

(ここまでは事前の情報通り。タバサさんの言うとおり、全て背負い込む性分の人、そして自縄自縛に陥っている。ただ目的がまるで見えない……)

 鏡花には未だ、名越はただ状況に求められて動いているだけで、ただ助けを求めているのか、それとも目的があって助けを求めているのか分からなかった。実際は本人も半分くらい分かってない、そう考えざるを得なかった。

 なぜ名越は、水本家の人間を求めたのか、何を求めているのか、明確にさせる必要があった。

 タバサの『そんな器用なことが出来る人なら、周りも苦労はしないんだけどね』という言葉の他の意味を鏡花なりに噛み締めていた。

(これは、苦労しますわね。色々と……)

 どこか似ている二人に、頭痛がしてきた。

 だがこの程度、これからの苦労を思えばかわいいものだった。

「まず確認させていただきますわ。父にお求めになったのは、水本の『名』ですの? それとも、『人』ですの?」

「……あわよくば両方ですね。人を求めれば、各界で信用の篤い水本さんですから、少なくとも一定以上の『人』は得られる。そこに『名』まで付いてくれば、なお良し、といった所です」

 先程から変わらぬ姿勢で答えた。

 名越の表情からは考えを窺い知ることは出来なかった。

「随分大胆な方ですわね。わたくしでは『名』が先行して、『人』としては物足りないかもしれませんが、それはこれからご判断くださいまし」

 微笑みを浮かべている。

「いえ、決してそんなことは……」

 対照的に名越は押され気味で、及び腰となっていた。


「今、最終的に矢面に立っていらっしゃるのは、名越さんですの?」

「わたくしが入った後も、名越さんは最終的に矢面に立ち続けるのですの?」

「まさか、わたくしを盾になさるおつもりではありませんわよね?」

 矢継ぎ早の質問を息苦しく感じた。


 鏡花の問いの圧は、真綿で首を絞めるものだった。

 求められている、答えを。自分でも明確にできていなかったモノを。


「今も、そして今後も、最終的な責任は私が取ります」

 長屋が戻ってきたら……、とは言えなかった。

 今求められているのは仮定ではなく、現在を基にした今後への答えだ。

「……その言葉、信じさせていただきますわ。あくまで名越さん個人への信用で」

 微笑みを崩さない。

 信じる。

 その言葉が重かった。

 その一言をきっかけに鏡花は、容赦なくとどめを刺しに行った。

 自分を名越に『本当の意味で』認めさせるための最後の一押しだった。

「残念ながら、わたくしは長屋さんではありませんわ。それでも必要だと、あなたは言い切れますの?」


「いえ、もっと正確に申し上げますわ。名越さんは、わたくしに何をさせたいのです?」


 追い込まれた。

 逃げることも、後戻りもできない。

 鏡花は答えを迫り、名越は答えに窮していた。

 押し問答をするよりもひとまず折れて話を進めた先は、袋小路だった。


 たっぷり時間をかけて考えた。恐らく数分、あるいはそれ以上、お互いに無言だったかもしれない。

「……私も長屋さんの代わりが欲しいわけじゃありません」

 やっと出てきた言葉は、言い訳がましい本音であった。

 少なくともこの期に及んでまで『今は』いない人を追いかけるわけにはいかないのだ。

「そうですね、正直に言いましょう。水本の『名』は欲しかった。何かしらの正当性とでも言いましょうか、とにかくそれがあれば社内にも社外にも、押さえが効いて少しは保たせられる、そう考えていました」

 途切れ、途切れ、言葉を選びつつ話す。

「ですが、それだけではダメですね……」

 自分の頭を整理しながら、自分の答えを探しながら話す。

「いま私は、来たモノを右から左へ決裁するので精一杯です。精査はしているつもりですが、返した先が必要としている、なぜその決定を下したのかという理由を、必要ならその説明も、そして判を押しただけでは終わることのない、最初と最後に誰が責任を取るのかということも、全て曖昧なままなんとなく進んでいる」

 現状はそうなってしまっている。このままではもう保たない。

「だが、必要なのは長屋さんの代わりじゃない……」

 徐々に答えの輪郭がはっきりしてきた。

「今、必要なのは長屋さんの代わりじゃない」

 繰り返すと答えの輪郭が更にはっきりした気がした。

「そうですね。今必要なのは、私の決裁に筋を通して、形を整える人です。私に出来ない、理由を説明して納得させられる、責任の線引きができる人、ですね」

 あとはもう、決まっていた。自分の出来ることを示す、ただそれだけだった。

「矢面に立つのは私です。最後の責任も私が取る」

 あとは一言、そして礼を以て接すること。

「……貴女には、私が立ち続けるために必要な後押しの役目を担って頂きたい」

 名越は立ち上がり、深々と頭を下げた。


 鏡花はしばらく黙っていた。

 先程までの容赦のない問いの連なりが嘘のように、静かだった。

 やがて、

「……頭を上げてくださいまし。名越さんのお考えはよく分かりましたわ」

 と、穏やかに言った。

 ただその声色までは穏やかではなかった。

「ですから、わたくしからも率直に申し上げますわ」

 自らを奮い立たせるように、鏡花は大きく息を吸って吐いて、そして名越の目を見た。

「名越さんもおっしゃっているように、わたくしは長屋さんの代役にはなりません。まずそれは明確にいたしますわ」

 名越も目線を外さずに、

「分かりました」とだけ答える。

「そして、どういう形であっても、矢面に立ち続けるのはあくまで名越さんです。わたくしも矢面に立つこともあるでしょうが、決してわたくしを盾にすることは認めませんわ」

 先程名越が決意表明したことだ。

 再び「分かりました」とだけ答える。

「ここまでは最低限の前提条件の確認です」

 名越が少し身構える。いくら頭を下げたとは言え、責任が生じる以上飲めない条件を提示されて丸呑みするわけにも行かない、そんな警戒感があった。

「無理難題を吹っ掛ける気は毛頭ございませんわ。ですが痛みは生じます。名越さんも、会社も、そしてわたくしも」

 暗黙の了解だった。今は必要な痛みだと。

「説明の形式、責任の所在、対外的な文言の出し方、そのあたりには遠慮なく口出しさせていただきますわ。必要とあらば差し戻しもいたします」

 即座に名越は考える。

 口出しすると言っている範囲は、現状手が回っていない領域だ。差し戻しも程度によるだろうが、恐らくは協議という形にはなるだろう。

「問題ありません」と頷いて同意する。

「事態は急を要しますわ。ですが痛みには混乱や反発が付きもの。そして速やかに収拾しなければならない。無期限で曖昧にとは行きませんわ」

 そうですわね……。


 鏡花は少し考えた。そして、

「その期限は六月末。いかがですか」

 名越もケリを付ける期限に異存はなかった。

「……分かりました」

 話は成った。


「ですがお互い流石に、今日の明日とは行きませんから、そうですね……、あまり変わりませんが、正式には四月一日からではどうでしょう。それまでに社内で鏡花さんを受け入れられるよう準備します」

「この話、お受けいたしますわ。四月一日が楽しみですわ」

 ようやく空気が少しだけ緩んだ。


「……ああ、それと、もう一つ。これは条件ではありませんわ。そうですわね……ただのお願いですの」

 名越にとって身構えておくべきは、このお願いだったのかもしれない。

「何があったか存じませんが、少々こじれているようですわね。タバサさんとのご関係」

(はあ?)

 口には出さなかったが、この場でタバサの名前が出てきた意味が分からないという顔だった。

「……何のことか分かりませんが、なぜタバサが出てくるんです?」

 困惑していた。その思わぬ一撃に混乱していた。

「あの方を放っておくのは感心いたしませんわ。それにタバサさんは中々に頼りになる方だと思いますわ」

「……余計なお世話ですな」

「私情は存じませんわ。ただ味方は多いに越したことはない、とわたくしは思うのですの。頭を下げてどうにかなるなら安いものですわ」

 痛いところを突かれてすごくイヤそうな顔の名越は、何も言えなかった。

 鏡花を招き入れたことを、あくまで私情としては後悔した。

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