第42話:育児(カオス)と『5S活動(お片付け)』の攻防
王都での戦い(恐喝)より、今の戦い(育児)の方が過酷かもしれません。 平和な居間で、最重要データ(インク瓶)を巡る攻防戦が勃発。
そして、元社畜は禁断の管理手法「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」を導入します。
王都での「非日常」が終わり、平和な「日常(通常業務)」が戻ってきた。
私はブライトン家の家計(財政)安定化を受け、中長期的な『資産運用計画書』の策定に着手していた。マリエルは家事と、そして(私にとっては)本筋である「婚活(文通準備)」を再開している。
平和だ。
平和、なのだが……。
私が居間で帳簿とにらめっこをしていると、すぐそばで積み木に飽きたクライアント(ロザリー)が、停止している私に気づいた。
「あーちゃん!」
(……呼ばれた)
「あーちゃん、あそぼ!」
「(業務連絡)ロザリー。私は今、重要なタスク(計算)を」
「あそぼー!」
タタタ、と小さな足音(脅威)が床を鳴らして迫ってくる。
まずい。ロザリー(クライアント)が、テーブル(ワークスペース)に無軌道な突撃を仕掛けてくる。
そのテーブルの上には、開いたままのインク瓶(最重要データ)が!
「(!! インシデント発生!)」
私の脳内(CPU)が、瞬時に警告を最大レベルで鳴らす。
『クライアント(ロザリー)』と『データ(インク)』が、コンマ数秒後に同時接触する!
リスクレベル、最大! 汚損! 破損! プロジェクト(家計簿)崩壊の危機!
「あーちゃ!」
ロザリーの小さな手が、テーブルの縁に叩きつけられる――その刹那。
私の身体は、ロジック(思考)による判断を省略し、最適化された反射で動いていた。
右腕は、突撃してきたロザリー(クライアント)の脇腹を正確無比にすくい上げ、小脇に抱える(確保)。
左腕は、インク瓶をテーブルの最も遠い(安全な)端へと、一滴も揺らさずスライドさせる(退避)。
「……ふぅ」
一連の動作を、わずか0.5秒で完遂。
(……セーフ。データ破損、およびクライアント汚損、双方を回避。ミッション・コンプリートだ)
私が安堵の息を吐いた、その時。
「きゃっきゃ!」
腕の中のロザリー(クライアント)が、恐怖(インシデントの認識)とは程遠い、歓喜の声を上げた。
「たかい! たかい、した!」
「……え?」
(「高い高い」……だと?)
どうやら、私(佐藤 葵)の「緊急回避」は、3歳児には「アトラクション(遊び)」として認識されたらしい。
「もっかい! あーちゃん、もっかい!」
「(……)」
私の腕の中で、ロザリーが足をばたつかせて「次」を要求している。
(……クライアントの要求と、当方のタスク(監査)のコンフリクト(競合)が発生)
私は、静かにペン(業務)を置いた。
(……やむを得ん。一時的にタスク(監査)を中断。クライアント(ロザリー)の要望を最優先する)
◇
数十分後。「緊急回避(という名の高い高い)」タスクにHP(体力)をゴリゴリと削られた私は、育児環境の根本的な「業務改善」が必要だと痛感した。
そう、必要なのは『5S活動』だ。
整理・整頓・清掃・清潔・躾。
(前世の職場では、ポスターまで作って「なぜこれが必要か」というレポートまで書かされ、徹底(強制)させられたな……)
私は、床の全域に散らばったロザリーのおもちゃ(ガラクタにしか見えない木片や石ころ)を前に、クライアント(ロザリー)を正座させた(※させたつもり)。
「ロザリー。(業務改善ミーティングを開始します)」
「なーに?」
「この『くま(ぬいぐるみ)』の『定位置』は、この箱です」
私は、空の木箱を指さす。
「使ったら(タスク完了)、ここに戻す(保管)。いいですね? 『定位置管理』です」
「てーち? はーい!」
(よし。クライアントの同意は取った)
私はロザリーと一緒に、一度はすべてのおもちゃ(資産)を箱(定位置)に戻した。
完璧だ。床の安全が確保され、QOL(生活の質)も向上した。
私は満足し、帳簿に戻った。
数分後。
(……静かだ)
静かすぎる。こういう時のクライアント(3歳児)は、大抵「仕様外の行動」を取っている。
私が恐る恐る振り返ると、そこには。
「(!!)」
ロザリー(クライアント)による、積極的な「仕様変更(ぜんぶ出す)」が発動した後だった。
おもちゃ(資産)は、再び床の全域に展開され、定位置であるはずの木箱は、ひっくり返って「太鼓」として利用されていた。
当のロザリーは、太鼓(木箱)を棒(木片)で叩きながら、ご機嫌に何かを歌っている。
私は、その場に崩れ落ちそうになるのを、なんとか堪えた。
額を押さえる。
「(なぜだ……)」
「(なぜ『管理』が通用しない……!?)」
「(プロセス(手順)は明確に提示した。クライアント(ロザリー)は、確かに『はーい(同意)』と言ったはずだ……! この契約不履行は……!)」
まさにその時、洗濯物(別のタスク)を抱えたマリエルさんが、居間を通りかかった。
彼女は、床と、私(絶望)を、一瞥した。
そして、深い、ふかーいため息をついた。
「……ロザリア様」
「(……マリエル)」
「育児に、あなたの『完璧な管理』は通用しませんよ」
彼女は、諦観を通り越して、どこか「憐れみ」すら含んだ目で、私に告げた。
「諦めてください」
お読みいただきありがとうございます。
「定位置管理(お片付け)」からの「即時拡散」。 同意を取ったはずなのに、数分後には太鼓になっている。 3歳児の行動力は、PDCAサイクルを遥かに凌駕しています。
そして、必死の「緊急回避(インク瓶救出)」が、「高い高い(アトラクション)」と誤認される悲劇。 クライアントが喜んでいるのでヨシ……なのでしょうか?
マリエルさんの「諦めてください」という言葉。 これが育児における唯一の「真理」なのかもしれません。
さて、そんなカオスながらも平和な日常ですが、裏では着々と「プロジェクト」が進行しています。 次回、『『婚活プロジェクト』の進捗と『傍観者(PM)』のバグ』。 マリエルさんの婚活が、本格的に動き出します。
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