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第36話:『共同監査(ディール)』の準備(報・連・相)

マリエルの承認を得て、いよいよプロジェクト始動です。 まずは「キックオフミーティング」。


課題は、雲の上の存在である王宮官僚に、どうやってアポイント(脅迫状)を届けるかですが……。

翌朝。


居間の空気は、昨夜の重苦しい情念が乾いたセメントで上塗りされたかのように、奇妙に張り詰めた「ビジネスライク」な緊張感に満ちていた。


ロザリーは(実にありがたいことに)マリエルのお母様に連れられ、庭で柔らかな日向ぼっこをしている。

クライアント(最重要)が席を外している今この瞬間こそ、我々(プロジェクトチーム)が実務タスクを推し進める絶好の機会だ。


私は、昨夜マリエルが承認アプルーバルした『リソース活用計画書』を、再びテーブルの中央に広げた。インクの黒が、朝の光を受けて鈍く光る。


「では、プロジェクト『対ユーリス交渉』、キックオフミーティングを開始します」

「……はい」


マリエルは、私の常軌を逸したテンション(社畜モード)にもはや何の反応も見せず、ただ静かに、覚悟を決めた目で頷いた。


「まず、タスクの洗い出しと課題ボトルネックの特定から。課題その1:接触方法(リードの確保)。どうやって王都のユーリス・マルカム――王宮財務局のエリート官僚に、我々(落ちぶれた令嬢と元メイド)がコンタクトを取るか。アポイント要求の“ルート”がありません」


これは深刻な問題だ。

普通に手紙を出したところで、秘書官(護衛)の段階で「迷惑メール(ジャンク)」として即座に破棄されるのがオチだろう。


すると、マリエルが静かに手を挙げた。その仕草は、昨夜までの怯えとは無縁の、冷静なものだった。


「……心当たりがあります」

「(!)」

「断罪の際、あなたの“情報スキャンダル”をリークした仲介人。……いわゆる『裏社会』の人間です」


(うわっ、『裏社会』……)


前世(コンプライアンス遵守の日本)では縁のなかった単語に、一瞬だけ背筋が凍る。

だが、そんな私の内なる動揺(コンプラ意識)を意にも介さず、マリエルは淡々と続けた。


「彼らなら、十分な報酬カネと引き換えに、二つの“業務”を請け負うはずです。一つは、王都郊外での『安全な場所(会議室)』の手配。もう一つは、ユーリス・マルカムへの『招待状(脅迫状)』の確実な送付」


「……!」


私は、感動(ドン引き)に打ち震えた。


(す、素晴らしい……!)


なんだ、この完璧な「オフィス・ポリティクス(裏社会含む)」は。

私がロジック(机上の空論)をこね回している間に、彼女はすでに具体的な「ルート調達能力」と「外注先アウトソーシング」まで確保していたというのか。


「素晴らしい“ルート調達能力”です。マリエル。その案、採用します」

「どうも」


「次に、課題その2:交渉材料アメとムチの精査。これは明確です」


私は計画書を指さす。


「“アメ(利益)”は、私が発見した『代官の不正(内部監査データ)』。彼のキャリアアップ(出世)に直結する手柄です」

「……」

「“ムチ(脅威)”は、ロザリア(元)とユーリスの『密通の証拠スキャンダル』。彼のキャリア(命)を断絶させる爆弾です」


マリエルの表情が、わずかに曇る。彼女の指先が、テーブルの下で小さく握りしめられたのが見えた。

……ダメだ。ここで彼女を「感情コスト」モードに戻してはならない。


私は即座に、次の議題アジェンダに移った。


「最後に、役割分担(R&R)です。私(葵)が『ロジック(論理)』と『データ(証拠)』による“アメ”の提示を担当します。マリエルは?」


マリエルは、私の意図を察したのか、ふっと息を吐いて、再び冷たい“監査役”の顔に戻った。


「……私は、『雰囲気ブラフ』と『切りとどめ』を担当します」

「(ブラフ、とどめ……)」

「あのユーリスは、私を『ロザリアの付属品メイド』、あるいは『(ロザリアと)同類の下賤な女』としか見ていません。その油断を、利用します」


「……完璧な“政治的判断ポリティカル・マニューバ”です。承認アプルーブします」


ミーティングは、驚くほどスムーズに終わった。

ロジック(葵)と実務マリエル

我々は、最悪の「共同監査人パートナー」として、今、確かに機能し始めていた。



マリエルは静かに立ち上がると、自分の荷物――王都から命からがら持ってきた、わずかな荷物の奥を探り始めた。


そして、一枚の、上質だがどこか曰くありげな羊皮紙(便箋)を取り出した。

それは、ヴェルデ公爵家の厳格な紋章が入ったものではない。

金色の薔薇の透かしが入った、極めて「私的」なデザイン。かつてのロザリアが、秘密の相手にだけ使っていたものだ。


「仲介人への手紙、およびユーリスへの“招待状”は、これを使います」


マリエルは、その便箋を私に見せた。

その瞳には、昨夜の絶望とは違う、覚悟を決めた冷たい光が宿っていた。


ユーリスが、これを『ロザリア・ヴェルデ個人からの呼び出し』だと認識しなければ、意味がありませんから」

お読みいただきありがとうございます。


「裏社会の仲介人」=「外部委託先アウトソーシング」。 マリエルさんの人脈が黒すぎます。 しかし、主人公にとっては「ルート調達能力が高い」という高評価にしかなりません。この主従、倫理観のタガが外れています。


そして役割分担(R&R)。 「私がロジック、あなたがブラフ(脅し)」。 完璧な布陣です。ヤクザとインテリの交渉術みたいになってきました。


次回、『変装リスクヘッジと王都への潜入』。 ついに実行の日。 顔が割れている(有名人すぎる)主人公は、完璧な「変装」で王都へ潜入します。 ……その変装、大丈夫ですか?


「マリエルさん強すぎw」「最高のバディ誕生!」とワクワクした方は、 ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をお願いします!

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