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第34話:報・連・相(ほうれんそう)『(元)醜聞(スキャンダル)の活用について』

ターゲット(ユーリス)と、攻略法(スキャンダル×横領証拠)は決まりました。 次は、パートナーであるマリエルさんへの「報・連・相」です。


ビジネスにおいて、根回しは最重要。 完璧なプレゼン資料を用意して挑みますが……。

「完璧な業務改善提案スキームだ」


私は「ユーリス」という“情報資産”の活用法を見出し、一人、脳内で喝采を上げた。

だが、そこでそく「実行(Go)」の判断を下さないのが、今の私だ。


(危ない危ない……)


私の脳裏には、かつて『監査報告プロポーズ』という名の狂気のプレゼンテーションを独断で強行し、マリエル(クライアント)から「リジェクト(差し戻し)」という名の、氷のように冷ややかな視線を浴びた、あの失敗インシデントが鮮明に焼き付いている。


(「報告・連絡・相談ホウレンソウ」……)


社畜の、いや、組織人としての基本原則。

そして何より、マリエルは単なるクライアント(補償対象)ではない。

彼女は、この『マリエル・ブライトン 人生補償プロジェクト』における、唯一無二の「共同事業者パートナー」なのだ。


彼女の「承認アプルーバル」なくして、この財政の根幹に関わる重要案件ディールを、私の一存で進めるわけにはいかない。



その夜。


ロザリーが健やかな寝息を立て始めたのを確認し、私は居間のテーブルへと向かった。

ランプの揺れる灯りの下、マリエルが(先日私が監査した)あの絶望的な帳簿(ゴミ溜め)の整理を続けている。その背中は、ひどく小さく見えた。


「マリエル。少々、お時間をいただけますか?」


私の、いつもより幾分か改まった声色に、マリエルはペンを止め、「……はい」と顔を上げた。

その青い瞳が、また何か「突拍子もない報告書」が出てくるのではないかと、一瞬、わずかに警戒を帯びて強張ったのが分かった。


(大丈夫。今回は暴走バグじゃない。ちゃんとした「提案書」だ)


私は彼女の向かいに居住まいを正し、単刀直入に切り出した。


「現在進行中の『婚活支援プロジェクト』、およびロザリーの『養育環境担保』について、一つの『業務改善提案』があります」

「……また、プロジェクト、ですか」


マリエルの眉がピクリと動く。その反応は想定内だ。私は構わず続けた。


「単刀直入に申し上げます。ブライトン家の財政状況を根本から改善するための、『資金調達ファクタリング』の目処が立ちました」

「資金調達……? まさか、またあなたの装飾品を……」

「いいえ。あれはすでに売却済み(リソース枯渇)です。今回活用するのは……」


私は一拍置き、あくまで冷静に、事実ファクトとして告げた。


「リソースは、わたくし……いえ、ロザリア(元)の“記憶”です」

「……記憶、ですか?」


マリエルの表情が、困惑から明確な不信へと変わっていく。


私は、ロザリア(元)の記憶データに生理的なドン引きをしている「佐藤葵わたし」の常識を必死に抑え込み、あくまで「ビジネス」のていで説明を続けた。


「ロザリア(元)の記憶インシデント・レポートを監査した結果、極めて“利用価値”の高い『情報資産』を発見しました」


(……とはいえ、思い出すだけで反吐へどが出るような、腐りきったデータ(記憶)だが)


対象ターゲットは、王宮財務局の官僚、ユーリス・マルカム。ロザリア(元)の……元・取引先・・・・の一人です」


マリエルが、小さく息を呑む。

彼女もその名前を知っていた。ロザリア(元)が「有能な駒」として傍に置き、見下していた、あの銀縁眼鏡の男だ。


私は、ロジカルに、淡々と、この「取引ディール」のメリットをプレゼンした。


ユーリスの「弱み(リスク)」=ロザリアとの密通。これは彼のキャリアにとって致命傷スキャンダルであること。


ユーリスの「欲求メリット」=彼は「領主代官の不正」を暴く手柄を欲しがっているが、“決定打”が足りていないこと。


我々の「交渉カード」=私が持つ「ゲルマン(家令)の横領の証拠」。これが、ユーリスの持つ証拠と“連結”すれば、代官を失脚させる“決定打”となること。


「……以上の点から、彼我の利害は一致します。ロザリアとのスキャンダルを“黙秘”する見返りと、代官を排除する“手柄”を提供する代わりに、我々はブライトン家への『税制優遇(合法的な利益供与)』を要求する。完璧なWin-Winの関係(取引)が構築可能です」


完璧だ。

社畜OL・佐藤葵が組み上げたロジック(企画書)としては、完璧なはずだった。


しかし。


マリエルは、私のプレゼン(提案)を聞き終えると、わなわなと唇を震わせ、その顔から急速に血の気が引いていくのを、私はただ見ているしかなかった。


「……冗談じゃ、ありません」


ランプの灯りが、真っ青になった彼女の顔に、暗い影を落とす。

それは、絞り出すような、拒絶の声だった。


「あなたの……いえ、ロザリア様の、あの“汚れた過去スキャンダル”を……?」


彼女は、弾かれたように立ち上がり、私を睨みつけた。

その瞳に宿っていたのは、ロジック(理屈)への反論ではない。

もっと根源的な、純粋な「嫌悪」と「恐怖」だった。


「あなたが……ロザリア様が、王都で、あの男たちと……っ」

「ま、待ってマリエル。これは過去の“清算”ではなく、未来のための」

「聞きたくありません!」


マリエルの叫びが、静まり返った夜の部屋に、ガラスが割れるように突き刺さる。


「そんな、汚らわしい記憶を……今更、掘り起こすなんて! あなたは、また……!」


――あなたはまた、私をあの「地獄」に引き戻すおつもりですか。


そう言外に叫ぶマリエルの、恐怖に歪んだに、私は言葉を失った。

お読みいただきありがとうございます。


「あなたは、また……!」 マリエルさんの悲痛な叫び。 主人公(葵)としては「使える資産ゴミをリサイクルしましょう」というSDGsな提案のつもりでしたが、マリエルさんにとっては「汚物トラウマを食卓に広げられた」ようなものです。


ロジックは完璧でも、相手の「感情エモーション」への配慮が欠けていました。 営業としては痛恨のミスです。 恐怖に震えるパートナーを前に、言葉を失う主人公。


このままプロジェクトは頓挫するのか? 次回、『説得『これは“コスト(過去)”ではなく“投資みらい”だ』』。 感情論で拒絶する相手を、主人公はどう「説得クロージング」するのか。


「デリカシーがないw」「マリエルさん可哀想……」と同情してくださった方は、 ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をお願いします!

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