表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/49

第18話 「疑惑の家令(ターゲット・ロックオン)」

「数字は嘘をつきません」 ゴミ山から掘り出したのは、ブライトン家を食い物にする「害虫」の痕跡でした。


真夜中の緊急報告アラート。 眠い目をこする領主に対し、元社畜が冷徹に事実を突きつけます。

 離れの部屋の冷気が、ランプの光でわずかに揺らぐ。


 マリエルの血の気が引いていくのが、その顔色の変化でわかった。彼女は、私の(楽しそうな)狂気と「横領」という単語の毒に、凍りついていた。


「……何を、言っているのですか。横領? この家に、盗むほどの金が……」


「違う」


 私は、彼女の震える声を、即座に否定した。


「金があったから盗んだんじゃない。『盗まれ続けたから、金が無くなった』んです」


「(ハッとして)……まさか、お父様を、疑って……!?」


「違います」


 私は、マリエルのその動揺を『監査役』の冷徹な目で見返した。


「ブライトン様は『被害者』です」


 私は、先ほど抜き出した二冊の台帳を、マリエルの目の前に叩きつける。


「(前世の新人研修のように)見てください、マリエルさん。ここ」


 インクで汚れた指が、数字が決定的に異なる箇所を明確に示す。


「××年、西地区の税収『500』。家計への繰入『300』。差引『200』が行方不明」

「その翌年。××+1年、西地区の税収『450』。家計への繰入『250』。差引『200』が行方不明」


 私は、ゴミの山から(索引を元に)さらに数冊の台帳を引き抜き、積み上げる。


「……××+2年、差引『180』。××+3年、差引『220』」


「これは『ミス』じゃない。『パターン(規則性)』です。何者かが、毎年、意図的に『税収元帳マスターデータ』から『家計支出入帳オペレーションデータ』へ数字を転記する際に、一定額を抜き続けて(・・・・)いる」


 マリエルは、その整然と積み上げられた「不正の証拠」を前に、言葉を失っていた。


「マリエル。今すぐお父様(ブライトン氏)を起こして」

「え……?」

「これは、私とあなたで抱えていい問題インシデントじゃない。経営陣トップマターです」


(『監査報告アラート』は、発見次第、即時上申。これが鉄則……!)


 私の有無を言わさぬ迫力に、マリエルは事の重大さを悟り、母屋へと走った。


 舞台は深夜の応接室。

 寝間着姿のまま叩き起こされたブライトン氏が、眠い目をこすりながら現れた。


「……ロザリア様。こんな夜更けに、何の騒ぎだ……」


 私は、前置きも謝罪も一切せず、ランプの光の下に、証拠となる台帳を広げた。


「ブライトン様。単刀直入に申し上げます。あなたの領地は、長年にわたり、内部の人間によって『横領』されています」


 ブライトン氏の顔に、最初は「何を馬鹿な」という怒りが浮かんだ。

 だが、私が「××年の税収500、繰入300」「翌年450、繰入250」と、彼が確認すら放棄していた「数字」を淡々と突きつけると、その顔から急速に血の気が引いていった。


「(震える声で)……まさか。そんな……」


「(監査役として冷徹に)ブライトン様。この『税収元帳』を管理し、『家計支出入帳』を作成・転記していたのは、どなたです?」


「それは……それは、一人しかおらん。我が家に三十年仕えてくれている、家令かれいの……ゲルマンだ」


 彼は、長年信頼していた男の名を口にし、その場で崩れ落ちそうになる。


(『ターゲット・ロックオン』。三十年勤務のベテラン。一番、疑われにくく、一番、不正オペレーションをしやすいポジション……!)


「(絶望)……だが、証拠が。彼がやったという証拠が、これだけでは……」


 彼は、長年の信頼を裏切られた(かもしれない)ショックで、判断力を失いかけている。


 私は、その狼狽する「経営者(ブライトン氏)」を見て、ニヤリ、と(前世のコンサルタントが大型案件を受注する時の)笑みを浮かべた。


証拠しょうこ? ……ブライトン様。甘いですね」


 ブライトン氏とマリエルが、ビクッとして私を見る。


「(カビ臭い台帳をバン、と叩き)これは『証拠』ではありません。まだ『疑惑アラート』です」


 私は、ブライトン氏に顔を近づけた。


「私が今からやるんです。この『ゴミのローデータ』全てを精査デューデリジェンスして、ゲルマンが誤魔化しようのない、完璧な『証拠エビデンス』を」


 私は、震える「依頼人」に宣言する。


「私は、彼がこの三十年間で着服した金貨・・一枚・・に至るまで、全てを定量化・・・し、完璧な『損害賠償請求書そんがいばいしょうせいきゅうしょ』を作成します」


「それが、私の『監査おしごと』サービスですので」


 私は、呆然とするマリエルに向き直った。


「マリエル。私たちの『契約けいやく』、内容が変更になりましたね。私はもう、あなたの家の『居候コスト』じゃない」


「――私は、あなたの家の『監査役プロフィット』です。そして、明日の朝一番で、あの家令ゲルマン執務室・・・・・を使えるよう、手配・・してください」


「……彼のデスク帳簿ファイルを、私が『監査おさえ』ますので」

お読みいただきありがとうございます。


証拠エビデンスではありません。まだ疑惑アラートです」 プロですね。 ここで「犯人だ!」と騒ぐのではなく、「これから完璧な請求書を作ってやる」と宣言するのが、歴戦の監査役(元社畜)です。


犯人は、30年仕えた古株の家令ゲルマン。 「信頼」を盾にした最も悪質な「内部犯行」です。


そしてラストの宣言。 「私は居候コストじゃない。監査役プロフィットです」 契約変更のお知らせです。マリエルさんも痺れたことでしょう。


次回、『監査じんもんの開始と『鍵のかかった引き出し』』。 いよいよ直接対決。逃げ場のない「詰め」が始まります。


「主人公カッコいい!」「倍返し(請求書)楽しみ!」と思われた方は、 ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ