システム管理者からのメール
自己紹介もひと段落ついた。
もとより、ゲームを始めたばかりの僕とサミーに関しては、自分のことを語るには、あまりにもここで過ごした時間が短すぎるので、この程度が限界なわけなのだ。
「さて、カク。お前にはギルドを紹介しておきたいのだが」
「いや、僕はすでにジャスティスブレイカーの一員だから、ギルドを紹介されても困る」
いま思い出したけど、このギルドの名前はジャスティスブレイカーなんだよなあ……。どうにかならんもんかのう?
いっそ英語にしてみるか。
Justice Breaker
うーむ、格好良いような悪いような。
略してみるか。
ギルドJB
ああ、これがいい。楽だし。
「鈴、ジャスティスブレイカーって名前はあまりにも格好良いが、少し長すぎる気がするんだ。だからここで提案があるんだが――ああ、もちろん鈴が嫌と言うならば僕はそれでも構わないが、ギルド名と言うのは僕たちだけが使うだけのものでもないし、鈴の知り合い、ひいては、このゲームの全プレイヤーのためと思って、略したほうがいいのではないだろうかという提案があるんだが」
なんか同じことを2回も言ったような気がするが、熱意は伝わったはずだ。
「いや、ジャスティスブレイカーでいい」
「…………」
なにも伝わっていなかった。
熱意も、僕がこの名前を心底嫌がっていることも。
なにも伝わっていなかった。
「WHOというヒーラー系のクラスだけが所属できるギルドがあってだな、そこのギルドマスターにお前を紹介しておこうと思うんだが」
「いや、だから僕はJBのギルドメンバーだから、他のギルドに入る気はないけど。というか、そんな何個もギルドを掛け持ちできるものなのか?」
「いや、正式に参加できるギルドはひとつだけだが、もうひとつだけなら、サブメンバーとして参加できるんだ。だからお前にはWHOに参加してもう」
我がギルドマスターの命令とあっては、断ることもできまい。
「さっき向こうのギルドマスターにメールを送っておいたから、そろそろ返信があるころなのだが……。お、きたか?」
しかし、僕がJBって言ったことは完全にスルーだったな。
もしかしたら、ジャスティスブレイカーのことをJBって略したと、気付いていないのか? バカだから。
なんだか同意が欲しくなってサミーの方を見る。
「サミー、なにやってんの」
「……んう?」
自分の部屋に居るような感覚で寝っ転がっているサミー。畳だからそういう格好をしたくなるのは大いに理解できるが、ここは四畳しかない空間。ひとりは背中から大仰な羽を生やし、そしてもうひとりは体を限界まで伸ばして寝転がられては、僕の空間が無くなってしまう。できれば、ひとり一畳というルールを制定したいものだが……。
「こっちではもういい時間だし、けっこうスリーピングかも。でもさあ――こっちでは夜なのに、そっちはまだお昼なんでしょ? 変な感じよね。だって、実際は同じ時を生きているのに、生きている時間が違うんだもの。例えば、あなたと私が同じ時間にこの世に生を受けたとしても、きっと一日分の誤差がある。丁度きっかり同じ瞬間に生まれたとしても、絶対にそれは同じではないのよ」
「……そうか」
こいつ、多分寝ぼけてる。
「ところで、ルーマニアって知ってる?」
「ああ、聞いたことくらいはある。どっかの国だろ?」
ええ、と言いながら、いかにも眠たそうに目をぐしぐしと擦る。
「ルーマニアほど、動物に優しい国はないって思うのよ」
「なんでだ?」
「逆から読むと、アニマールだから」
「知るか!」
けっこうネイティブな発音よねえ、と訳の分からないことを口走り始める。
「あと、ファッションブランドである、アルマーニもアニマールに優しい」
「ややこしいわ!」
「アニマールだかアルマーニだか知らないけれど、出来れば説明書的なものがほしいのよねえ。マニュアールみたいな。でもなんだかんだ言って、説明書とか見ないでしょ。間に合っているのよ、そう言うのは。マニアーウよ。えっと――それで、動物に優しい国は確かルマニーアだったかしら?」
「お前、少し落ち着け!」
支離滅裂すぎて、なにを言っているのか分からない。
アニマール、アルマーニ。
本当に言い間違えてしまいそうな怖さがある。
もうサミーは落ちた方がいいのかもしれない。16歳と言っていたし、睡眠が大切なお年頃なのだ。
そして本当にうつらうつらと、サミーが船をこぎ始めた頃。
「カク――お前、メール届いてないか? システム管理者から」
「メール? いや、そんなものが届いた覚えは……」
メニューコマンドからメールへ。
すると一通だけ、メールが届いていた。
「ああ、僕にも届いているけど。これがなんなんだ?」
メールを開く。
「えーっと、なになに。全プレイヤーに告ぐ。直ちに屋内から出てください。システム管理者より、か。なにかのイベントか、それとも避難誘導かなにかか?」
「さあ、分からん。ただ、どうやらこのメールは本当に全プレイヤーに届いているらしいから、いちおう指示には従っておいた方がよさそうだ」
鈴はしゃきっと立ち上がって、出口を見つめる。僕もそれに倣おうと思ったが、それよりもまずは、サミーを起こさないと。
「おい、サミー。一度起きろ。なんかイベントが始まるらしいぞ」
「……むむう。起きます……」
もっそりとした動作で起き上がる。しかしすぐにバランスを崩して、僕の方にもたれかかってくる。
「おい、サミー。起きろよ」
男としては、嬉し恥ずかしなシチュエーションではあるが、いかんせん僕たちは二頭身である。支え合おうとすれば、まず頭がぶつかるし、支えようとしても十分に手が届かない。結果、頭を擦りつけ合っているだけにしか見えない。
「お前らいい加減にしろよ……」
そしてブチ切れる、我がギルドマスター。




