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ギルドルームにて自己紹介

 かくして――ギルドルームである。


「なんでギルドルームはこんなに狭いんだ?」


 四畳しかない。畳が四枚、床に敷いてあるから四畳だ。

 なぜに畳。


「人数が少ない上に、まだ作ったばかりのギルドだから、これが一般的だ。それと、玄関で靴は脱ぐように」


 サミーは靴を履いたまま入室したところを、騎士様に注意されて、急いで靴を脱ぐ。なんとも可愛らしい仕草であった。


「そういえば自己紹介がまだだったな」


 入口から一番遠い、おそらくは上座であるところに、どっかりと腰を下ろして彼女はそう言った。それに倣って僕たちも畳の上に、なんとなく正座で座った。


「わたしの名前は福木鈴。鈴と呼んでくれ」


 ……福木鈴? なんだか天才子役っぽい名前なのだが、きっと実在の人物とは一切関係ありません。


「なにか質問はあるか?」


 そう聞かれて僕はサミーをちらりと見る。しかし、サミーは特に聞くこともないのか、微動だにしない。

 ここでなにも質問しないと言うのはマナー違反にもあたるので、適度な質問をすることにした。


「えーっと、ですね。鈴さん……」


「まて、鈴でいいし敬語もいらない」


「あ……。お、おう」


 そういうことを強い口調で言われると、親しみやすいのか、そうでないのかよくわからなくなってしまう。


「えーっと、それじゃあ鈴。それは騎士のクラスってことでいいのか?」


 彼女の装備やら剣やらを指さして問う。もしかしたら装備品を騎士風に見立てているだけなのかもしれないが、一番最初に出会った白騎士も騎士っぽかった。


「ああ、ソードマンの上位にあたるクラスだ。なかなか強いぞ。ちなみにお前はヒーラーだから、どんなに頑張っても騎士にはなれないからな」


「なんで? クラスチェンジ的な機能があるんじゃないのか?」


「そんなものはない」


 鈴はきっぱりと言う。


「クラスチェンジの機能が無いからこそ、それぞれのクラスの重要性が増すんだ。考えても見ろ。剣も扱えるのに弓も扱える、そうなったらパーティーを組む意味も薄くなってくるだろう? だからこそ、自分が選んだクラスを実直に伸ばしていくことが大切なんだ」


「なるほど」


 言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。むしろクラスチェンジなど、それぞれのクラスを蔑ろにしてしまうシステムである。


「質問は以上か。なら次はお前が自己紹介しろ――もちろん面白いこと、やれよ?」


 そんな無茶苦茶な……。だいたい鈴だって面白い事言ってなかった……、いや、そもそも名前が面白かったから筋は通っているのか?


 仕方がない。覚悟を決めて、以前考えたオモシロ発言で大爆笑をとってやろう。


「ヒーラーのカクです。17歳です。ゲームを始めたばかりの新人ですが、どうぞよろしく」


 そして一呼吸置いて、気合を入れる。


「ニュアンス駄洒落、言います!」


 僕は立ち上がって、鈴を見下ろし、そして――


「北京の近辺!」


「…………」


「敦厚で昏倒!」


「…………」


「熱唱中に熱中症!」


「…………」


「…………」


 誰ひとり、なにひとつ反応がない。

 面白い事を言えと言ったのならば、そんなに面白くなくてもクスクス笑うくらいの優しさがあるだろうと思って発表したのに、さすがの僕もこの対応にはカチンときた。

 だから僕は、鈴に向かってこう言ったんだ。


「笑えよ」


「あははははははは!」


「笑うな!」


 僕が笑うな、と一蹴すると、鈴は一切の表情をなくして、僕に近づく。顔と顔の距離が10センチにも満たないような近さで彼女は止まり、


「――謝れよ」


 そう――言ったのである。


 もちろん僕が悪かったことは認めよう。面白くもないニュアンス駄洒落を披露して、それがウケなかったから、鈴に対して笑えと言った。そして笑ってくれた彼女に、僕は笑うなと言ってしまったのだ。

 ……でも、それはあんまりにもあんまりではないか。


 そんなことを、謝りもせずにグダグダ思っていると、鈴はおもむろに僕の胸ぐらを掴みあげる。


「謝れよ」


「ごめんなさい」


 基本的に、僕は弱い人間なのだ。

 ママや学校の先生から怒られないように、適度に頑張っているし、それでもクラスの人たちからガリ勉だと思われないように、力も抜いている。クラスのほとんどの人が無視している人がいれば、僕ももちろん無視するが、しかし陰ではいじめ良くないと思っている。

 そんな感じの、弱い人間なのだ。

 だから――仕方ない。


 と、鈴はようやく僕から手を離して、サミーに向き直る。


「よし。カクの自己紹介は以上だな。次はお前だ。もちろん面白い事やれよ? まあ、カクの後だから、何をやっても面白いとは思うがな」


 それ、微妙にハードル上がってるぞ。


 超近距離に居た僕と鈴は、そのままの立ち位置から座った。近くに来て初めて分かったのだが、この狭い部屋の中、騎士の背中に付いている大きな羽は、死ぬほど邪魔だ。


「サミー、アメリカ出身在住の16歳。クラスはマジシャンです。面白い事言います」


 こいつ、なぜだか知らないけど、面白い事言いたくてうずうずしてないか? 自己紹介のくだりが激烈に短い辺りが、なんとも言えず。

 いや、僕も似たようなもんだったか?

 まあ、いいけど。寒いこと言ったら、サミーさみーって言ってやろう。


「今井舞」


「…………?」


「すき焼き屋kiss」


「…………?」


「サマンサの秋刀魚さ」


「…………?」


 何を言っているのだろうか。さっき僕が大爆笑をとった(嘘)、ニュアンス駄洒落の真似だろうか。

 いまいまい?

 すきやきやきす?

 さまんさのさんまさ?


「…………?」


 回文……!?


 鈴の方を見るが、彼女も意味を理解していないのか、ぽけーっとした表情でサミーを見上げている。まあ、こいつはバカなので最初から期待はしていなかったが、それでもこの回文に対して、僕はなんらかの反応を示すべきである。

 しかし、10秒ほど前に、サミーさみー、程度のことくらしか考えていなかった僕は、彼女になんて声をかけてあげればいいのかわからない。サミーの言葉の意味を理解しているのに、それに見合った言葉をかけてあげられない自分が悔しい。


 悩みぬき、混乱しきった頭。だがしかし、なにかを言ってあげないと駄目だと思う気持ちだけが先走り、


「すばらしいよ、サミー。君はアメリカ代表の日本人だ」


――そんなことを口にしていた。

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