初心者のためのプレイヤーキル
まあ、とにかく。
PKを敢行することになったわけだ。
というわけで、今はPKする相手をこそこそ隠れながら見つくろっている最中である。
「なかなかいい獲物が通らないわね……」
いったい何を根拠に善し悪しを決定しているのか定かではないが、彼女に任せておけば大丈夫だろう。いきなりログインした僕とは違い、サミーはネットで色々と情報を集めてからログインしたらしいからだ。
「この時間は日本時間だと何時になるのかしら?」
「もうすぐ午前9時になるぞ。けっこう朝早い時間帯だ」
「……そう。ならプレイヤーの人数が少なくても仕方ないか。でもきっちり獲物は見つけてみせるから、安心してちょうだい」
なにひとつ安心できない。
考えてみると、PKをするということは、逆にPKされ返しても仕方がないと言う事でもあるのだ。そしてもうひとつ。モンスターを倒すことと違うのは、PKした相手は消え去ってしまうのではなく、HPが0になった代償として街からスタートしなければならいとういことだ。
つまり、復讐される可能性があるということ。
嫌だなあ。
と、そこで。
「よし。あそこの、バカみたいな騎士に狙いを定めましょう」
サミーは指をさす。
確かに騎士が居た。さきほど僕が議論を交わした騎士に似ているようだが、それは騎士というクラスのものなのだろう。全体的に白を基調としている。
そして、羽を生やしているが飛ぶことはせず、のんべんだらりと平原から門へと向かっている。あの間の抜けていそうな騎士ならば、確かにイケるかもしれない。
というのは、あまりにも短絡的な思考だ。最初に選べるクラスは、ソードマン、アーチャー、マジシャン、ヒーラーの四つしかないのだ。騎士は無かった。恐らくはソードマンの上位のクラスなのではないかと推測される。
いや、騎士というクラスがあればの話でしかないのだが。
「サミー、やっぱりあいつは強そうだからやめた方がよくないか?」
それに、なにか重大なことを忘れているような気がする……。
「大丈夫よ、見てみなさい。あのバカっぽい感じを」
指示に従って騎士を見てみると、なぜか門の前、しかし他のプレイヤーの出入りの邪魔にならないような絶妙なポジションを陣取り、自らの剣を眺めている。
もしかしたら自分の剣に見惚れてしまっているのかとも思ったが、そうではなかった。
いきなりその剣を使って、素振りを始めたのだ。まるで、これからバッターボックスに向かう打者のような真剣さを身にまとっている。
ひゅん、と風きり音がここまで聞こえてくるほどの鋭いスウィング。下半身に力も入っているし、僕が野球チームの監督ならば、絶対に使いたいタイプの選手だ。
しかし――剣でスウィングの練習をしているところが、なんとも言えずバカだ。
まあ、小学校からの帰り道に傘を持っていたときは、大概同じことをしていたような記憶が僕にはあるから、あまり強くは言えないのだが。
「あれなら多分私たちでも倒せるし、PKした相手がバカなら、それほど罪悪感もないでしょう。まさにうってつけよ」
そして末恐ろしい事を、さらりと言ってしまう自称アメリカ人、サミー。
「それで――どういう具合に戦うんだ? 言ったと思うけど、僕はヒーラーで、ヒールしか覚えていないから、攻撃は出来ないぞ」
「魔道書があるでしょ」
「ああ、だから魔道書を使ってヒールを使うんだけど……」
そうじゃなくて、とサミー。
「魔道書で叩けば、威力は弱いけど打撃属性の攻撃になるから」
その攻撃方法は斬新でおもしろいが……。
「まず私が、割と射程の長いファイアボールをここから撃つ。2秒後に再発動が可能だから、MPが切れるまで撃ち続けて、そしてあのバカがこちらにやってきたころを、私の杖打撃とカクの魔道書打撃でPKするって戦法よ。もし攻撃されてこちらのHPが減った場合は、あなたのヒールで回復してちょうだい」
意外と理に適った作戦だった。
「それじゃあ行くわ。ファイアボール!」
「待て! 心の準備体操がまだ出来てない!」
そんなことを今さら言っても遅かった。サミーの周りが輝きだして、次の瞬間には火の玉が、素振りをしている騎士に向かって飛んで行く。
「ファイアボール!」
一発目の火の玉が騎士に当たる前に、二発目を発動するサミー。
「うそっ!?」
サミーの驚愕の表情。
一発目は完全に不意を打った攻撃だったのにも関わらず、簡単にかわされてしまった。そして騎士は空を飛んで、二発目のファイアボールをかわす。
悠々と空を旋回しながら、こちらの位置を確認して、今度はものすごいスピードで急降下してくる。
逃げることなど、考えもつかないくらいの追い方だった。
「あー……」
降り立った騎士を目の前にして、僕はそんな間の抜けた声しか出せなかった。
たぶんPKされちゃうな。
「まだまだあっ!」
しかしサミーは諦めていないのか、装備していた杖で殴りかかる。
ぽかん、と可愛らしい音と共に、騎士のHPが1だけ減った。
そう――なにか見落としているような気がしていたんだ。
文字通り、レベルが違う。
騎士が強いとかそんなことではなく、僕たちはこのゲームを初めてまだ1時間程度しか経っていない、初心者だったのだから。
おそらく、今このゲームの中で一番弱いのは僕たちである。
でも――だからこそ、チャンスがあるような気がした。
ぽかぽか、と杖で叩き続けているサミーの腕を取って、無理やり座らせる。
「な、なにをするの!」
僕も正座になり、これ以上にないくらい低頭する。
「すいませんでしたっ!」
――土下座である。
数秒間の沈黙ののち、サミーが口を開いた。
「Oh……。ジャパニーズ土下座。初めて見ました……」
パシャリと、そんな感じのよく耳にするシャッター音が、僕の頭の上の方で聞こえた。
さすがの僕も堪忍袋の緒が切れた。
「お前なに写真撮ってんだよ! お前も謝れよ!」




